内容説明
江戸森田座気鋭の役者・今村扇五郎にお熱のお春が、女房の座を狙って近づいたのは……。芸を追求してやまない扇五郎に魅せられた面々の、狂ってゆく人生の歯車。ある日、若手役者の他殺体があがり、ついには扇五郎本人も――「芸のため」ならどこまでの所業が許されるのか。芝居の虚実を濃密に描き切ったエンタメ時代小説。
感想・レビュー
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starbro
184
表紙イラストとタイトルに魅かれて読みました。蟬谷 めぐ実、初読です。江戸、歌舞伎の人気役者・今村扇五郎を巡る艶のある連作短編集でした。綱吉の時代だったら、犬の血を使うなんてことは出来なかったんでしょうね。 https://www.shinchosha.co.jp/book/355651/2024/06/01
パトラッシュ
159
蛸と芝居は血を荒らすというが、狂気に陥るほど芝居に憑かれた役者に魅せられた者も血が荒れて沸騰するのを抑え切れない。役者の妻、贔屓の娘、饅頭屋に衣裳仕立て屋、鬘師らは全てを芝居に捧げた今村扇五郎の生き様から目を離せず、危険と察しながら強烈な炎に誘われて蛾のようにふらふらと近づいていく。火に焼かれたり大火傷を負っても、扇五郎のためなら人であることを辞めても後悔しないほどの姿が凄まじい。しかし強い火勢は扇五郎自身をも焼き尽くし、自らの死すら芝居として上演してしまうのだ。彼らが幸福だったと疑えないのが怖ろしいが。2024/07/09
いつでも母さん
147
あぁ・・あぁ・・ったく、どいつもこいつも魅入られちゃって、暮らしていくことはそっちのけ。暮らし?生きること?んなこと扇五郎の存在に追いやられちゃうんだなぁ。扇五郎本人だってその世界に浸食されちゃって、生きてるのか死んでるのかはどうでもいいんだなぁ。それが『沼』堕ちるってそういう事。もはや人ではない。狂気の世界だ。あなおそろしや・・推しとか贔屓がいる人には大好きな世界だ。2024/06/09
タイ子
99
読了後の惚け感が堪らない。江戸の芝居小屋が三座に限られていた時代。森田座の歌舞伎役者・今村扇五郎の人気は異才と美貌で江戸中を席巻していた。6つの連作短編集の物語の中心に扇五郎がいて、彼の周囲のさまざまな歌舞伎界の人間模様が描かれる。それは、饅頭屋、着物の仕立て師、木戸芸者、鬘師たちでありそれぞれのプライドが光と影になり見事に物語を紡いでいく。後半で起こる予想外の出来事に扇五郎の妻・栄が奔走する姿がカッコよくも切なくもある。虚実の中に生きる芝居役者の誇りが最後まで胸を突く。ラスト一行まで読ませる作品。2024/09/04
fwhd8325
79
伝統に根付いた世界って、こんなに面白く、すごかったんだ。ちょっと圧倒されちゃった感じなんです。2024/09/18