内容説明
とある住宅地に、刑務所を脱獄した女性受刑者がこちらに向かっているというニュースが飛びこんでくる。路地をはさむ10軒の家の住人たちは、用心のため夜間に交代で見張りを始めることに。事件をきっかけに見えてくるそれぞれの家庭の事情と秘密。だが、新たなご近所づき合いは知らず知らず影響を与え、彼らの行動を変えていく。生きづらい世の中に希望を灯す、ささやかな傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
49
面白かったです。脱獄した受刑者の女性を機に、それぞれの家庭の問題が浮き彫りになります。新たな近所付き合いが日常を変えていくように見えました、お互い影響しあいながら希望の光が差し込むのが良かったです。淡々と心の変化が描かれていたのも、読み終えて穏やかな気持ちになれました。2025/01/04
のじ
49
脱獄犯が自分たちの住んでいる住宅地の方に逃げてくるかもしれない、というやや物騒な設定だけれど、お話は津村さんのあわく人と人とがつながって、影響しあっていくという感じのお話。こういう、うっすらとした人のつながりを描いていくのがほんとうに巧い作家さんだなあと思う。人と人とが出会うとっ協力し合ったりぶつかったり、嫌な人もいたりするけれど、出会いがなければ物語もうまれないよなあ、とか思ったり、人付き合いの苦手な自分を振り返って寂しく思ったりもするのでした。2024/10/19
エドワード
47
よく閑静な住宅地という。この作品の舞台となる10軒の家もその類だ。家族はひとつとして同じではない。文中に「この住宅地に漂う後ろ向きな充足感にうんざりする」という実にうまい表現がある。お互いの事情に踏み込まない。変化を好まない。そこへ刑務所から脱獄した女性が登場する。なんとある家の住人の同級生だ。彼女・日置昭子はなぜ逃げたのか?彼女によって生み出される、住宅地の人々の奇妙な一体感と高揚感、図らずも明らかになる家庭の秘密。緻密に構成され、終幕の収束まで、実に面白い。<つまらない>は<楽しい>に変わるかな。2024/05/20
カブ
42
つまらない住宅地なんて、そこら辺にある。それでもそこに住んでいる人それぞれにドラマがあるのだと思う。この作品は、まさにその通りなのだけど、何故か少し滑稽でドタバタな感じにクスッとしてしまう。住んでいる人たちの名前と家の場所が覚えられなくて、地図を何度も見てしまった。2024/05/31
ベローチェのひととき
40
妻の本棚から借りてきた本。NHK夜ドラの原作だったり、各メディアで話題となった注目作ということで興味深々であったが、期待に違わず一気に読んでしまった。ただ10軒の住宅とそこに住む家族関係を覚えるのに、最初の内は見取図と登場人物の説明を見比べながら読み進めました。全ての家に様々な事情があり、それらが微妙に絡み合って大団円に向かうという小説ならではの面白みがありました。2024/11/22