内容説明
奄美諸島徳之島出身の東貞吉は、琉球警察名護警察署配属時に、米軍現金輸送車襲撃事件で手柄をたて公安担当になった。
そして沖縄刑務所暴動で脱獄した人民党の島袋令秀に接近し、自分の作業員に育てることにした。
人民党の瀬長亀次郎に心酔していく令秀に影響を受け、次第に瀬長を敬愛していく貞吉は、公安としての職務を全うできるのか?
米軍の横暴に立ちはだかった瀬長亀次郎と知られざる沖縄の姿を描く傑作小説!
(解説・内田 剛)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Y.yamabuki
19
占領下の沖縄の状況を理解しながら、アクション有りの警察小説としても楽しめる読み応えのある作品だった。徳之島出身の貞吉は、手柄を立て琉球警察の公安となる。当初は忠実に任務をこなしていたが、やがて米国の占領政策に納得出来ない人々への共感と米国の意を受けての治安を維持する公安の仕事の狭間で葛藤し始める。スパイにした少年への贖罪の気持ちも描かれる人間ドラマの面も。戦後の沖縄の歴史について自分が余りにも無知だったことに愕然とした。また米国って民主主義の国じゃないの?日本政府も何なの?と情けなくなった。 2024/06/17
hukkey (ゆっけ)
12
日本に返還される前の琉球政府時代、本土が復興を果たすための生贄となった沖縄の歴史。米軍の傍若無人な振る舞いと沖縄人の誇りの狭間で苦しむ人たちの息遣いがありありと感じられるような、史実を元にした公安警察の物語。USCARの指示で動く公安担当の東貞吉が、党員である少年の島袋令秀をスパイに仕立てて沖縄人民党の瀬長亀次郎をマークする中で、次第に彼の思想や活動に傾倒していく。奪われたものを取り戻すことが、どれほど困難で、どれほど価値あることなのか。職務として、沖縄人に虐げられた奄美人として、矛盾に向き合う姿が熱い。2024/04/15
coldsurgeon
7
波乱万丈の熱い男たちの物語だ。戦後の沖縄、復帰前の琉球を舞台に、沖縄警察の公安警察官となった一人の男の心の葛藤と勇気が描かれる。理不尽な社会の流れが当たり前とみなされる当時の沖縄の地を、のし歩く米国統治体制に、憤りを覚えつつ、主人公たちの活躍を心から応援する。2024/04/29
H
6
この作者はすごい。何と熱い話か。高名な瀬長亀次郎の話は多少は知っていたけど、奄美出身者が沖縄で差別されていたことは知らなかった。2024/04/23
A.KI.
3
戦後、米軍統治下の沖縄を舞台にした警察・スパイ小説。主人公は実質的に米軍の指揮下にある琉球警察の公安として働くが、一方で沖縄の自由を取り戻そうとする瀬長亀次郎らの理念に共感し、矛盾を抱えていく。戦後の沖縄の置かれた状況を知識としては知っていても、どうしても遠く離れていて実感することが少ない中、こうした作品を読むとあらためて沖縄が歩んできた苦渋の歴史を軽んじてはいけないと思わされる。キャラ造形や展開などちょっと劇画チックなところもある気はしましたが、沖縄の現代史に興味があれば面白く読めると思います。2025/06/04