内容説明
「本をつくり、とどける」ことに真摯に向き合い続けるひとり出版社、夏葉社(なつはしゃ)。従兄の死をきっかけに会社を立ち上げたぼくは、大量生産・大量消費ではないビジネスの在り方を知る。庄野潤三小説撰集を通して出会った家族たち、装丁デザインをお願いした和田誠さん、全国の書店で働く人々。一対一の関係をつないだ先で本は「だれか」の手に届く。その原点と未来を語った、心しみいるエッセイ。(解説・津村記久子)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
小太郎
40
最初は純文学拗らせ人間がしょうがなくて出版社を始める話かなと思って読んでました。作者は勿論そういう気持ちもあったことを正直に語っています。ただ実際に本を作る仕事に打ち込んでいるうちに、自分自身が変わっていく姿が書かれています。その仕事の中での色々な人に出会いそれで自分の本に対する本気度が上がっていく。読んでいて作者がこの仕事に就いて本当に良かったと感じました。根本的な所での作者の本に対する趣味の良さや誠実な気持ちが成功に繋がったんだと思えます。私の好きな作家庄野潤三さんのエピソードも素敵でした。★42024/07/12
Shoji
31
全ての読書家さんに勧めたい本です。「本を読むということは、現実逃避ではなく、身の回りのことを改めて考えるということだ。自分のことをよく知る人のことを考え、忘れていた人のことを思い出すということだ」と述べています。ストンと腹落ちした。納得の一冊だ。さて、著者は「何度も読み返される、定番といわれるような本を、一冊一冊妥協せずに作りたくて」出版社を立ち上げ、自ら経営されています。であるなら、自ら経営する夏葉社から出版すればよさそうだが、何故、新潮社から出版なのか。それだけが不可解だ。2025/06/08
海燕
29
本とか本屋について書かれた本を、これまでほとんど読んだことがなかったと思う。著者は15年ほど前に、夏葉社という出版社をひとりで立ち上げる。当初取り扱ったのは、古い本の復刻であったという。それも知る人ぞ知るという類の作品。あえて紙の媒体での出版にこだわり、また顔の見える客のことを考えて本を作る(著者の言い方を借りれば「具体的」な仕事)。安易に商業ベースに乗る仕事をしない。天職なのだろう。タイトルの「古く」は漢字なのに対して「あたらしい」は仮名。表記にこだわりがあるようで、その意図を考えるが分からない。2024/06/14
新田新一
23
一人で出版社を経営している島田潤一郎さんのエッセイ。2章に分かれており、まず、なぜ出版社を作った経緯が書かれ、次に仕事に対する思いが書かれています。本が好きという熱い想いが伝わってきて、胸が熱くなります。島田さんの仕事は、今の社会の流れに逆行しています。効率や利益よりも信頼と誠実さを重んじたもので、読者一人一人の顔を想像しながら、本が作られます。そうやって出来上がった夏葉社の本は、人の手のぬくもりが感じられるものです。本は人の人生を変え得る力を持っています。その力を信じる島田さんの姿勢に深く共感しました。2024/05/01
ユメ
20
私は最近、忙しさからあまり本を読むことができずにいて、それによって気が滅入っていた。だが、そうではなく、私にとっての積読はそれを読むことを楽しみにして頑張れるものだったと思い出させてくれたのが本書だ。「一冊の本を家に持ち帰ると、その本の存在がしばらく、ぼくの日々の明かりとなった。それは、なんというか、生活の小さな重心のようなものだった」という言葉に深く頷く。おそらく忙しない日々は当分続き、心のバランスが崩れそうになることもあるだろうけれど、大好きな本に重心をとってもらいながら一歩ずつ進んでゆこうと思えた。2025/07/12