内容説明
からだは傷みを忘れない――たとえ肌がなめらかさを取り戻そうとも。
「傷」をめぐる10の物語を通して「癒える」とは何かを問いかける、切々とした疼きとふくよかな余韻に満ちた短編小説集。
「みんな、皮膚の下に流れている赤を忘れて暮らしている」。ある日を境に、「私」は高校のクラスメイト全員から「存在しない者」とされてしまい――「竜舌蘭」
「傷が、いつの日かよみがえってあなたを壊してしまわないよう、わたしはずっと祈り続けます」。公園で「わたし」が「あなた」を見守る理由は――「グリフィスの傷」
「瞬きを、する。このまぶたに傷をつけてくれたひとのことをおもう」。「あたし」は「さやちゃん先生」をめがけて、渋谷の街を駆け抜ける――「まぶたの光」
……ほか、からだに刻まれた傷を精緻にとらえた短編10作を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
374
千早 茜は、新作中心に読んでいる作家です。本書は傷痕&血に纏わる心&身体に突き刺さる短編集、オススメは、『竜舌蘭』&『からたちの』&『あおたん』です。 https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/griffith/ 2024/06/23
さてさて
364
『傷』に光を当てたこの作品に思いをこめられる千早さん。『傷』を前向きなものとして捉えることは困難だと思います。しかし、そんな困難に立ち向かい、”ネガティブ感を覆したい”とおっしゃる千早さん。この作品には、千早さんがおっしゃる通り、”それはもう傷ではなくなる”という瞬間を見る主人公たちの姿が描かれていました。『傷』というものに対する見方が変化もするこの作品。『傷』というものが持つ奥深さを思うこの作品。千早さんの筆が見せるリアルな痛々しさが伝わる物語の中に『傷』というものの意味を改めて思う、そんな作品でした。2024/04/29
R
267
傷がモチーフというかテーマになっている短編集だが、血のイメージの印象が鋭い鮮烈な文章だった。色や情景、意思や思想なんかの象徴としての血や、傷が平易な言葉で、どこにでもありそうな話しで語られているんだが、その示すところが深いし、何よりも言葉が鋭いと感じた。言葉運び、選び、文章そのものが芳醇といえるくらい、見事に思えて、言葉以上に様々なことを想起させられることに驚いて読んだ。とても面白かったし、切ない。2024/07/06
はにこ
251
短編は普段あまり好まないんだけど、これは良かった。傷にまつわる10の短編。傷つけられた方も傷つけた方も無自覚な傷や、その両方が気にし続ける傷。身体の傷や心の傷。色んな傷があるね。そういうことを改めて考える機会になった。2024/06/23
漆虎太郎
220
傷跡もなく、すっかり忘れてしまっていたけれど、その出来事から気づかぬうちに心のカタチや生き方が変わってしまったことってあるよなぁってこの小説を読み終えて思った。また、体に残った傷口を眺めると当時の記憶・感情が一瞬で呼び起こされることもある。忘れられる痛み、忘れられない痛み、その違いを自分なりに知りたくなった。目に見えない「グリフィスの傷」から膿み出たもの、きっとそれが本当の自分なんだろうな。直視するの怖いけど。2024/08/13