内容説明
母はなぜ、義母だと嘘をついたのか。
明日見つむぎはごく幼い頃に父と母を亡くし、母方の親戚である奈緒に引き取られた。奈緒は心に不調を抱えながらも「義母」としてつむぎを懸命に育てる一方、心の距離を取ることにはこだわり、「母」と呼ばれることをかたくなに拒んでいた。
そんなある日、病院から奈緒が倒れたと連絡が入る。持病の子宮腺筋症が悪化し、大量に出血したのだという。急ぎ病院に駆けつけるつむぎだったが、そこで医師から奈緒の病状だけでなく、奈緒がつむぎの実の母親であることも告げられる。
信じがたい話に愕然とするが、医師が持つカルテには、たしかにこの病院で奈緒がつむぎを出産したことが書かれていて――。
母はなぜ、義母だと嘘をついたのか。18年間隠された出生の謎を追う、現役医師作家が描く圧巻の家族小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mukimi
131
産婦人科医による生殖医療小説。なんだろうこの腑に落ちなさは…自分が産婦人科医だから、倫理的禁忌が小説になっているのが気に食わないのか。超えてはいけない一線を超えるのが小説の醍醐味とは思うが、職業的潔癖のせいで素直に楽しめず。私を産婦人科医たらしめる大きな動機、私達の誰もがたった一つの細胞であったという事実と妊娠出産という圧倒的な神秘への畏怖、そりゃ創作の源となるだろう。しかしそれが「グレーな生殖医療」として一冊の小説にまとめられたことを飲み込めなかった。(私が特殊な読者なので普通は楽しめると思います)2024/12/04
machi☺︎︎゛
94
タイトルの意味が知りたくて読んだ一冊。−196℃は凍結胚保存タンクの温度だった。産婦人科の先生が書かれた話だから専門的な所もあって興味深く読んだけど、どこまでが今の技術でできる事なのだろうと思った。20年も前の身内の凍結卵を使っての妊娠とかできるのかな。全然無知の世界だったからいろいろ衝撃的だった。赤ちゃんが宿ってくれる事も無事に産まれてきてくれる事も奇跡の連続だと改めて思った。2024/06/14
えみ
50
人が誕生することに何か明確な理由が必要だろうか。まして、その過程を辿ることで生きていることに卑屈になる要素など一つもない。恥じることも劣等感を感じることも、憎むことも悲しむことも何もない。望まれても望まれなくてもこの世に生を受けた瞬間から「私」なのだから。私だけが私の「生命の価値」を知っているのだから。精神が不安定な義母・奈緒と2人で暮らしてきたつむぎは、ある日義母が緊急搬送された病院で告げられる。「あなたは奈緒さんから生まれています」。隠されていた本当の母娘という事実。一体なぜ?命を紡ぐ想いが心を貫く。2024/11/23
貴
45
過去を変えるためにできることは、悲しいことですが、何もありません。ただ未来のために学んだ過去を生かして生きることは大切なことだと思います。どんな命も幸せを求めて生きているのだから。2024/10/07
sayuri
43
本作の主人公、18歳のつむぎは幼い頃に両親を亡くし、義母の奈緒と二人暮らし。義母はパニック障害の持病を抱えており、つむぎは家の中でも絶えず気を張って生活している。互いに他人行儀で、家庭の温かさは微塵も感じられない。ある日、義母の奈緒が倒れ、病院へ駆けつけたつむぎに明かされた真実は残酷だ。タイトルの-196℃は凍結胚を保つ為の温度で本作の鍵となる。性暴力による望まぬ妊娠もあれば、妊娠を切望する女性もいる。不妊治療に一縷の望みを託す、切なる思いが伝わって来た。それでも尚、つむぎのルーツには疑問が拭えなかった。2024/04/15