岩波文庫<br> 無垢の時代

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岩波文庫
無垢の時代

  • ISBN:9784003234518

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内容説明

一八七〇年代初頭,ある一月の宵.純真で貞淑なメイとの婚約発表を間近に控えたニューランドは,社交界の人々が集う歌劇場で,幼なじみのエレンに再会する――.二人の女性の間で揺れ惑う青年の姿を通じて,伝統と変化の対立の只中にある〈オールド・ニューヨーク〉の社会を鮮やかに描き出す.ピューリッツァー賞受賞.

目次

第一部
第一章─第十八章
第二部
第十九章─第三十四章
訳注
訳者解説
イーディス・ウォートン略年譜

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

藤月はな(灯れ松明の火)

69
普遍的だからこそ、面白い一品とも言える本書。ニューヨークの上流階級出身のニューランドは離婚したばかりの従姉のエレンと再会する。密かに社交界の細やかな決まりごとにうんざりしていたニューランドは奔放に場をかき乱し、上流階級者から鼻つまみ者扱いされても気にしない(様に見える)エレンに惹かれていく。一方で婚約中の慎ましやかで無垢なメイも捨てきれない。そんな恋愛に優柔不断や結末から考えても、彼はどんなに泥を被ろうとも欲望に忠実になれず、自分が位置する所から自ら脱しようとする行動力も持ちえなかったのだろう。2023/09/11

ケイトKATE

37
婚約者との結婚が間近にもかかわらず、初恋相手と再会して恋愛感情が蘇るという展開は恋愛小説によく登場する。はじめは、三角関係の小説と読んでいたが、そうとは言い切れない。確かに、ニューランドは婚約者メイがいるにもかかわらず、初恋相手エレンと再会して恋が再燃するが、あくまでもニューランドの視点であり、メイは冷静を保ちエレンは一線を越えようとはしない。物語は淡々としているが、1870年代のニューヨークが生き生きと描かれていると、ニューランド、メイ、エレンの繊細な心理描写が相まって、大人の小説として楽しく読めた。2023/12/26

ケイティ

33
久々に非日常的な世界に入り込んだ作品でした。この時代特有の富裕層の華やかだが不自由な生活に漂う哀愁が不思議と心地よい。主人公のニューランドは、清純なメイとの結婚を控えながらも、破天荒ないとこのエレンに惹かれていく。展開やあらすじは古典的だが、登場人物の心理描写の繊細さが見事。無邪気に見えるメイだが、実は酸いも甘いも分かっているしたたかなたくましさ、自分軸で生きるエレン、情熱的ながらもどこか冷めた諦観もあるニューランド。女性作家だった読後に知り、ロマンティックになりすぎず、現実的な視点に大いに納得です。2024/01/23

春ドーナツ

20
舞台は1870年の紐育。「グレート・ギャツビー」の5年前に刊行された。オールド・ニューヨークと呼ばれる小規模な社交界が描かれている。暗黙の倶楽部会員規則みたいなものが詳細に紹介されていて、パリやロンドンとは違って退廃的なムードはなく、かなり保守的である。主人公とふたりのヒロインのモラトリアムが切々と語られる。「ロミオとジュリエット」をちょっとだけ思い出す。けれども1920年代の刹那的なジャズ・エイジ、フラッパーガールたちとは異なり、つまるところ古風な三人は、それぞれの仕方で筋を通す。流儀には哀しみが伴う。2023/07/15

ぺったらぺたら子 

19
控えめながらH・ジェイムズ感が浮き上がってくる瞬間、心がぞわぞわする。何重にも緊密に空気を読むことが品性である閉鎖空間に闖入する、空気を読めないヨーロッパ帰りのエレン。それが主人公の目を開いてしまい、彼は故郷を失ったままそこで生きることになる。環境に従順であることを無垢と呼び、また環境に抗いつつも、無垢を傷付けることが出来ない不器用な誠実さも無垢と呼んだのではないのか。無垢とは主にメイを表わしつつ、登場人物全てを指しているようだ。その無垢を超えた自由な世代の登場と対比して、自らの無垢に殉じるように終わる。2024/07/05

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