内容説明
ホームレスの老女が殺され燃やされた。犯人草鹿秀郎はもう18年も引きこもった生活を送っていた。彼は父親も刺し殺したと自供する。長年引きこもった果てに残酷な方法で二人を殺した男の人生にいったい何があったのか。事件を追う刑事、奥貫綾乃は、殺された老女に自分の未来を重ねる。私もこんなふうに死ぬのかもしれない――。刑事と犯人、二つの孤独な魂が交錯する。困難な時代に生の意味を問う、感動の社会派ミステリー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
419
葉真中 顕は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。本書は、昭和平成風俗史社会派厭ミスの秀作でした。これから、ドンドン起こりうる類いの事件かも知れません。 https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/97843341025792024/04/12
nonpono
338
初めて葉真中作品を読んだとき知りたかったのは筆者の年齢だった。同じ時代を生きてきた匂いを感じた。本作品はわたしにとって踏み絵だった。最後はむせび泣いていた。小学校の頃は自分が何にでもなれると信じて疑わなかった。夢がころころ変わった。誰かに人生はファミコンのようにリセット出来ないんだ。すぐはやりなおせないんだ、と言われたことがある。本作に出てくる人はみな、喘ぐ。みな、弱いし、孤独だし、認められたくてたまらないんだ。社会を時代をそして、あたしたちの世代を描いてくれた墓標のような作品に出逢えた、47才、初夏。2024/06/12
イアン
333
★★★★★★★★★☆8050問題に切り込んだ奥貫綾乃シリーズ第3弾。都内の公園で老女の焼死体が発見される。間もなく逮捕されたのは18年間ひきこもり続けた男だった…。男はなぜ実父を殺害し、老女を焼いたのか。身元不明の老女の鑑取りを担当する綾乃とひきこもり男・草鹿の独白を交互に挿みながら、事件の真相を炙り出していく。8050問題の他、虐待や貧困ビジネスなど現代社会が抱える闇をミステリに昇華させる手法は葉真中顕の真骨頂。ただ「いる」ことを認められたかった草鹿の渇望は、一歩違えば私が発した願いだったかもしれない。2024/12/09
stobe1904
319
【奥貫綾乃シリーズ】ホームレスの老女が公園で殺害され、燃やされてしまう。そして犯人は中高年の引きこもった生活を送っていた…。このシリーズは社会的な問題をテーマに据えているが、今回テーマは中高年の引きこもりだった。様々な経緯から引きこもりとなってしまい、社会、家族、友人から断絶された孤独と闇は深く簡単には解決できないが、エピソードの光明が深い余韻をもたらす。絶叫』『Blue』と同様読み応え十分な素晴らしい作品だが、メンタルが万全な時に読みたい作品。★★★★★2025/05/15
hirokun
274
★4 私は葉真中さんの社会派ミステリー小説が好きです。今回の作品は、中高年ひきこもり、ネグレクト、8050問題などを題材にしたもの。私自身の経験とも関係しているのかもしれないが、空気を読むことを求める社会、明日は今日よりよくなるとの実感が持てなくなった経済状況、現代資本主義社会の転換点ともいえる時代に差し掛かっていること、日本社会に強く存在する共同体的価値観、これらの事に押し潰されそうになり、この世から消滅したくなる現実。様々な時代背景を描写しながらストーリーが組み立てられている。2024/04/28