内容説明
1923年9月1日に発生した関東大震災は、東京近郊に大きな被害をもたらしたばかりか、近代日本の精神にも大きな傷跡と罪科を刻み込んだ。
民間人らによる朝鮮人虐殺や憲兵らによる無政府主義者殺害である。
シベリア抑留体験のある父を持ち、ドラマ・映画化された小説『風よ あらしよ』でアナキスト伊藤野枝・大杉栄と、大震災での彼らの殺害を描いた村山由佳、祖父が関東大震災で殺されかけ、家父長制の色濃い在日家庭に育ち、自らも様々な形での差別を経験してきた朴慶南。
ふたりが、戦争と植民地支配、災害と虐殺が日本人社会に与えた影響、そして、いまだ女性やマイノリティへの差別と偏見が根強く残るこの国の100年を語り尽くす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Sato19601027
60
関東大震災後の戒厳令下における朝鮮人虐殺、これ程、酷い状況だったとは…。村山由佳さんと朴慶南さんの二人の女性作家が語る日本人に隠されてきたが、知らなければならない近現代史。「朝鮮人虐殺」100年前のこの事実を知っただけでも、この本を読む価値があると思う。朴さんは「小説を読むことも、かけがえのない追体験」と指摘。村山さんは「自分の思いに強いものがあるなら、それを小説という入れ物に入れて届けるということは、これからも続けていきたい」と話す。村山さんの小説「風よ あらしよ」「星々の舟」など、早く読まなくては。2024/07/26
優希
37
女生とマイノリティについての100年を語り尽くしています。未だに残る差別や偏見はジェンダー論へと通じるものがあると思いました。女性として考えさせられる歴史対談でした。2024/04/08
青雲空
9
読んでよかった。全編素晴らしいのだが、特に印象に残ったことがある。村山さんの「許されることを前提に謝ることをを詫びとは言わない」。 謝ったら死ぬ病の似非保守政治家や、「謝ったらいいんでしょう」と拗ねるアホ世襲政治家をみていると、村山さんの人間としての高い品格を感じるのである。 もうひとつ、「言葉ってほんとに不完全な道具だし、たった6色の色鉛筆で極彩色の絵を描けと言われているみたいに不自由じゃないですか。」という発言。 言葉の遣い手の村山さんが言うだけに、重みがあった。2024/05/02
どら猫さとっち
7
「風よあらしよ」などの直木賞作家と、在日家庭に育ち社会を見つめてきた作家が語る、近現代史100年。関東大震災から、朝鮮人虐殺や戦争、ヘイト発言と差別など、その醜悪さは100年経った今も消えることはない。その歴史の記憶や記録から想像力を生む糧にするための言葉、そして思想。今私たちが考えなければならないことが、すべてこの一冊にある。2024/03/23
K.C.
6
手に取った経緯は忘れたが、対談の両話者の経験や蓄積をうまく引き出し合う良書と感じる。歴史をミクロでしか見ず、マクロで見える不都合なものは見ないふりをしたり、隠してしまう現在の風潮には自身も危機感を持っている。昨今の政治資金問題もそう。民間には徹底的な記録を(それも下手すると紙と電子データ両方!)持たせるのに対し、公がポイポイ記録を破棄したり。検証される歴史であってほしい。2024/05/25