内容説明
数十年に一度の日食が起きた日、名門大学の学生寮で女子学生が亡くなった。密室状態の現場から自殺と考えられたが、小説家としても活躍し、才気溢れた彼女が死を選ぶだろうか? 三年間をともに過ごしながら、孤高の存在だった彼女と理解し合えないまま二度と会えなくなったことに思い至った寮生たちは、独自に事件を調べ始める――。第十九回ミステリーズ!新人賞受賞作「ルナティック・レトリーバー」を含む五編を収録。大胆なトリックと繊細な心理描写で注目を集め、新人賞二冠を達成した新鋭による、鮮烈な独立作品集。/【目次】街頭インタビュー/カエル殺し/追想の家/速水士郎を追いかけて/ルナティック・レトリーバー
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
212
ミステリでは各所に散りばめられた伏線がラストできれいに回収されると、いい作品を読めたと満足するだろう。しかし考えてみれば、実人生で様々な事態に遭遇しても問題が回収されるなどあり得ない。むしろ心の衝動を抑え切れず暴走してしまい、罪を犯した理由が自分でもわからず、判断の誤りを悔いるのが普通だ。ミステリが最も現実離れしているのは、その部分かもしれない。収録の5短編とも少々作りは人工的だが、人生経験の浅い若者が初めて生きる上では伏線が回収されない事実を知り、苦い思いを噛みしめる青春小説として鮮やかに成立している。2024/08/01
みっちゃん
140
最終作を読んで「ああ、やはり」と頷けるタイトル。ミステリーとしての面白さもさることながら、若者の心情の細やかな描写に心惹かれた。強い自我と自負、なのに裏腹にそれと矛盾するような将来への不安、「持つ者」への嫉妬や妬み、そして何よりも理解して欲しい、分かち合いたい、と願う心。だからこそ、なのかもしれないが殺人が起きてしまう2編では、その動機に「それはいくらなんでもあまりに…」とは感じてしまった。2024/06/26
ma-bo
98
ミステリーズ!新人賞受賞作「ルナティック・レトリーバー」を含む、各話が独立した多種多様な5編収録された短編集。真実は回収しない(されない)少し苦さや後味の悪さを残す。現役の東大大学院在学中、1999年生まれのZ世代の作者。SNSでの炎上や蛙化現象等、20代の作者だからこそ自然に描く事の出来る世界だと思う。これからの作品にも期待、注目したいな。2024/08/21
yukaring
97
タイトルが本当に秀逸。「そんなに人生は回収できることばかりではない」と深く頷かされるミステリ短編集。人間観察が趣味の桐人に舞い込む「SNSでの炎上を静めてほしい」という依頼。そしてまさかの結末に驚く『街頭インタビュー』お笑いで頂点を目指すコンビが遭遇する殺人事件。先輩を殺したのは誰なのか?『カエル殺し』これはカエルの意味がずっしり心にのしかかる。名門大学の学生寮で亡くなった女子大生は本当に自殺したのか?『ルナティック・レトリーバー』などさらっと読めるのに心に刺さる、個性豊かな5つの謎解きを楽しめる1冊。2024/05/26
ナミのママ
95
【第十九回ミステリーズ!新人賞】受賞作品『ルナティック・レトリーバー』を含む5編からなる独立作品集。『街頭インタビュー』は40ページ弱の中にギュッと濃縮された文章で1作目から引き込まれた。どの作品もSNS、恋愛、部活、家族とテーマが若い人に受け入れやすい身近なもので読みやすい。受賞作『ルナティック・レトリーバー』はたたみかけるトリックの面白さに加えて、これからを生きる人へのメッセージ性も含まれている。短編にこれだけ盛り込む手法は圧巻、やられた感がいっぱい。次作も楽しみな作家さん。2024/05/25