内容説明
【アーシュラ・K・ル=グイン賞特別賞受賞作】未知のパンデミックに襲われ、人々の絆や社会が崩壊しかけた近未来。余命わずかな子供たちを安楽死させる遊園地で働くコメディアンの青年、亡くなった人との短い別れを演出するホテルの従業員、地球を離れて新天地をめざす宇宙移民船……消えない喪失を抱えながらも懸命に生きる人々の姿を描く、新鋭による切なくも美しい第一長編。/解説=渡邊利道
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
47
確かに傑作『クラウド・アトラス』や『ステーション・イレブン』などを思い起こすスリップストリーム文学の新たなる秀作である。場人物同士がゆるやかに繋がる連作短篇形式だが、舞台は日本とアメリカを中心に遥か遠くの宇宙までとかなり壮大。喪失と哀感を強く描いた終末小説でありながら、厭世や絶望だけに留まらない啓けた観念的な世界をも作り上げている。成る程、これは確かにル=グウィンに連なる文学だ。作者も意識してると思われる『インターステラー』好きにもお勧めしたい。これからが楽しみな作家だ。2024/03/10
本の蟲
18
シベリア永久凍土から発見された未知の病原菌による、世界的パンデミックに襲われた世界の短編連作。人類滅亡、あるいは復活がテーマではなく、個々人の死別とその受け止め方。変質する社会が主。家族とのすれ違いに、亡くなった後の変化。児童のための安楽死テーマパークや、群雄割拠の葬儀企業。ロボット犬セラピーから銀河系規模の壮大な話まで。作者は日系米国人で、米国での日系社会や、日本が舞台のエピソードも多数。ある話の脇役や縁者が、別の話での主役になったりする構成は好み。表紙とイメージが重なる「記憶の庭を通って」が印象的2024/03/24
アヴォカド
16
瑣末なことが気になる。解説文も含めて全体に、なぜここにフリガナ?が気になった。人名のフリガナは、いくら単純な読みでも、読み方を規定したいためだろうなと理解するが、「アメ横(よこ)」「禿(は)げた」「憂鬱(ゆううつ)」「冊子(さっし)」にも必要か?ましてや「蝶(ちょう)」「味噌(みそ)」など初出のみならず何度も振ってある。これらを読めない読者という想定なのか。それを言うならもう全部に必要では?一方「甲板」「桟橋」「解雇」などには無し。基準がまるでわからん。すみません、中身とは関係ないけどモヤモヤでいっぱい。2024/04/01
keichato
1
面白かった。複数の主人公、複数の視点で大きな物語を多角的に描く作品が大好きなので、とても面白く読めた。 「笑いの街」「豚息子」「百年のギャラリー、千年の叫び」が特によかった。 絶望や喪失、残された人はそれらと向き合ったり、乗り越えたり、というエピソードが連なって、最終的にはすっごいところまで連れていかれる。 最後の章は、うーん、好きだけどなかった方が心に残ったかもなぁとも思う。ほんとに、こんなところまで行くの?って感じだったので。2024/04/07
mirie0908
1
一気読み。よかった。終末/破滅SF。死と喪失と家族の物語。現代の地球から遠未来の宇宙まで話は拡がりあきらかにSFだけど、SF文庫じゃなく海外文学セレクションとして出ているのも内容的にうなづける。ちょっと早いが個人的には今年のベスト3には入るかな。 あとパンデミック物で音楽ネタが豊富ってのは、ちょっとサラ・ピンスカーを連想したが、この2つ親和性があるのは何か共通点があるのかしらん。2024/04/04