内容説明
中国の南北朝時代、北斉の皇族・蘭陵王は比類なき武勇と美貌で知られていた。あまりに秀麗な顔を隠すため、鬼面をかぶって戦場に立つ蘭陵王は、暴政によって傾く国を守るため、必死に武をふるうが……。北斉の血塗られた歴史がもたらす悲劇を描いた、本格中国歴史小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
146
六世紀 中国の南北朝時代 北斉の仮面の貴公子 蘭陵王の物語である。 美し過ぎる顔を 隠すために、仮面をつけて 戦場を駆け巡り、北斉を 支えたと言われる 名将の悲劇… 北周と 北斉の 覇権を巡る闘い …お互いに 内部の権力闘争が いかにも 中国歴史物らしい。 暗愚な主君と 佞臣が 蘭陵王の行く手を 阻む。楊堅による 隋の統一までが、 簡潔に わかる、そんな作品でも あった。2019/09/09
はっせー
114
本当に面白かった! この本は南北朝時代と言われる時代に活躍した蘭陵王の話である。この人物は顔も美しく戦にも強かった。ある意味人間離れした人であった。そのため王からの嫉妬や使い走りにされてしまう。中国の歴史も日本の歴史も動乱の時代では傑物が現れやすい。蘭陵王もその1人である。だが、君主だけには恵まれていなかった。蘭陵王の人生はあまりにも短く、あまりにも辛い人生だった。だからこそ輝いて見えるのかなと思った。作者の田中さんは数多くの参考文献を読み勉強しているため話が深い。また田中の本を読みたいと思った!2019/09/30
NAO
72
雅楽の唐楽『蘭陵王』は、6世紀中ごろ中国の南北朝の北斉の皇族蘭陵王に由来する。腐敗しきった北斉にあって、眉目秀麗、戦功著しい英雄。だが、彼の活躍と人気は、猜疑心の強い皇帝の嫉妬心をあおることにもなった。『蘭陵王』は、蘭陵王が一躍その名をはせた邙山の戦いから蘭陵王が無実の罪で死を賜るまでが描かれている。それにしても、中国の権力争いというのは、どうしてこうも陰惨なのだろう。そして、だからこそ、一陣の清らかな風のような蘭陵王が、強く心に残るのだろう。田中芳樹の中国物は結構好きだ。『岳飛伝』もいつか再読したい。2019/10/07
future4227
56
こんなにも面白いキャラクターとエピソードなのに、これを描く作家さんのなんとも少ないこと。ムーラン、岳飛、蘭陵王と田中芳樹さんの中国史の目の付け所は流石だなぁ。『資治通鑑』『北斉書』の記述を元に隋朝建国前の南北朝争乱を描く。斉の皇帝は次から次へと鬼畜みたいな皇帝が出てきて、それでも反乱や謀叛が起きないのだから、どんだけ家臣たちは忠義が厚いんだよ。蘭陵王もまさにその犠牲となった忠義のヒーロー。蘭陵王の勇ましい戦いぶりや優しい人柄がよく伝わる小説だった。ファンタジー要素をほんのちょっと入れたのもいい感じ。2021/05/01
アイゼナハ@灯れ松明の火
40
三国、晋、五胡十六国を経ての南北朝時代は北斉の末期に活躍した仮面の貴公子、蘭陵王・高長恭の物語。とはいえその悲劇よりも北斉という王朝の乱脈ぶりの方に目を奪われてしまいました。月琴ではないですが、もっと早くに義兵を起こしてしまった方が世のためだったのに…と思わなくもないですが、疎まれていても公子という立場が邪魔をしたのかも知れませんね。少々ファンタジーなオチが意外とこの物語に合っていると思うのは、無軌道な王朝に身を慎んで仕えた果てに裏切られた、貴公子の哀しさに同調してしまったせいかも知れない。2012/04/03