内容説明
海を見た人間が死を夢想するように、速水圭一は北条司に美を思い描いた。高校二年の春、同じクラスの北条の「美」の虜になった美術部の速水は、彼の肖像画を描き始めた。二人の仲は深まっていくが、夏休みのある出来事が速水の心を打ち砕き――少年の耽美と絶望を端正かつ流麗な文体で描き、選考会でも激論を呼んだ話題作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
石橋陽子
17
伊良刹那、17歳史上最年少で新潮新人賞受賞という快挙。三島由紀夫に魅せられ、文体は三島が乗り移ったかのような作風。読書歴も短くフリック入力で書いた作品とのことで驚くばかり。読み難い漢字の数々、見たこともない熟語が飛び交い調べながら読むが進まないので頓挫。三島風に気取って書いてあるのかと思いきや、ずっしりと重みのある文章を連ね、そこには確かな実力がみられる。美に関する思想が秀逸。自殺への考察には舌を巻き、自殺とは意志を放棄する無意志な行為とだという。次回作から大注目である。2024/05/11
練りようかん
13
初めて会った瞬間から同級生の美しさに魅了された主人公。恋するのは当然の流れに思え、美術部の先輩の一言が決定打に。単語は難しく思索を言語化した言葉と言葉の連なりは密なのだけど、時折ふっと空気が漏れる感じがして、わかるその気持ちわかるその道程となる、端正なのに抜け感がある文章がすごいと思った。友として接し感情を表に出さぬよう偽りの習慣が、花火のキス目撃で無意識に出るシーンの切ないことよ。終盤は死ぬのでは、救われた、いや死ぬのかとハラハラしっぱなしだった。連想することが多かったからか三島作品を読みたくなった。2024/07/20
naolog
7
図書館にて。これは令和の純文学なのだろうか。普段ヘンテコなミステリばかり読んでいるので毛色の違いに戸惑うばかり。恋とか愛とか認識が散りばめられているのにちっとも分からないし、空虚というのか虚しさばかりになる。2024/05/02
チェアー
5
完全な三島オマージュの作品。(そう聞いて読んでみた) 空回りする言葉と現実のギャップがすごい。まったく心に響いてこない。三島とどこが違うのか。もし著者がこの心情を本当に抱いているとしても、心がうまく伝わってこなくて、コメディーを見ているように感じる。 2024/05/26
まるよし
5
擬古文でデビューした平野啓一郎を彷彿とさせた。難しい言い回しが気になるが、この才能、技術には感嘆するほかない。会話や情景から心理的描写するのではなく、言葉で心情を説明するスタイル。絶望の表現形として北条の死というのはいささか早計の感はある。ただ発表時、17歳。このさきどんな作品を残すのか楽しみ。若くデビューしても二作目三作目が芳しくない作家もおられるので、伊良氏には期待したい!2024/05/24
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