内容説明
ひとと上手くつきあえないクリストファーは、近所の犬が殺されているところに出くわす。彼は探偵となり犯人を探そうと決意する。勇気を出して聞きこみをつづけ、得意の物理と数学、たぐいまれな記憶力で事件の核心に迫っていくが……冒険を通じて成長する少年の姿が共感を呼び、全世界で舞台化された感動の物語
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
徒花
459
不思議な物語だった。他人の感情と比喩表現のわからない男の子が、隣の家の犬が園芸用のフォークで殺害されていたのを発見したのを期に、犯人探しをしながらそれを小説にしていこうとする試みをそのまま本にした作品。主人公はロジカルシンキングしかできないので言い回しがくどいが、それこそが本作の魅力であり、独特なものにしている。なんのジャンルに入るか難しいが、最後はいちおうハッピーエンドなのでご安心を。2016/12/06
ヴェネツィア
409
本書は、いわゆるアスペルガー症候群の特徴を顕著に持った15歳の少年クリストファーの書いた本(手記)といった体裁を取る。内容は、ご近所で殺された犬のウエリントンの犯人探しに端を発し、そこから次々と物語が膨らんでいくというもの。我々読者は、クリストファーの内的世界の論理と、通常とは別の意味での豊かさを、彼の一人称語りによって追体験してゆくことになる。彼の数学的な論理の前では、父親も母親も、そして警官さえもがダメな人間に見えてくる。ひじょうに説得力のある稀有な思考体験の数時間であった。多数の受賞歴にも納得。2016/09/10
こーた
135
数学って、なんの役に立つの?そう問われることがしばしばある。そんなとき、ぼくは困り果て途方に暮れてしまう。役に立つことがあまりにも多すぎて、適当な答えを選ぶことができないのだ。この物語は、そのひとつの解答である。数学を使えば、隣のいえの犬を殺した犯人を見つけることができるし、行ったことのない大都市へ冒険に出かけていくことだってできる。数学は答えがあるからラクだ。あるいはそんなことをいうひともいる。ちがうんだ、答えが見つかるかどうかは、その問題に本気で取り組んでみなければ、わからないのだ。(1/2)2017/11/20
まふ
129
自閉症のうち、知能や言語の遅れがないものがアスペルガー症候群とのことである。15歳のクリストファーは数学・物理学分野で優れた能力を有しているものの、過敏症であるため普通の日常生活ができず養護学校に通っている。近所の飼い犬の殺害事件を契機に、両親の不和が明るみに出され、ひとりロンドンの街まで冒険の旅に出る。この旅で体験したものすべてが彼には新鮮であるだけでなく、その観察された世界は読者としても現代文化・文明の底を見せつけられたようで思わず唸った。切り口鋭くかつ面白い、の一言に尽きる物語だった。G1000。2023/09/11
sin
95
物語の少年はハンディキャップに打ち克って勝利を納めたのだろうか?ここに描かれた彼はまるで野生動物の様に他人を受け入ることが出来ず、自らの本能のままに振る舞う。そして彼は愛されることに無関心でいることしか出来ずに、身近な者の気持ちを斟酌することがない。人間は分け隔てなく誰も一人では生きられない現実を認識出来ない彼と、報われない父親の物語としか読み取ることが出来なかった。◆英ガーディアン紙が選ぶ「死ぬまでに読むべき」必読小説1000冊を読破しよう!http://bookmeter.com/c/3348782018/04/16