内容説明
私たちは音楽を演奏し、ダンスを踊り、それら表現を見ることで日々の彩りを豊かにし、ときに癒やされ、励まされもしている。本来、優劣をつける必要がないにもかかわらず、人はなぜコンクールの場を設けて、芸術やパフォーマンスで競い合うのか。
ショパンコンクールからK-POPのオーディション番組、ダンススポーツ、民謡、伝統音楽、古典芸能、そして学校のコンクール、バレエ教室の発表まで、多種多様なコンクールの事例を紹介して、パフォーミングアーツを競い合うことの多様性と共通点、魅力やダイナミズム、問題点を浮き彫りにする。
演者や表現者が認められるべく努力し、審査員が真剣な眼差しを向け、観客が歓声を上げ、称賛を送る――コンクールという場で創造される表現の可能性、そこに生じる演者のキャリアや挫折、そして社会的な意義に多面的に迫るユニークな論考集。
目次
序 章 なぜパフォーミングアーツを競い合うのか 宮入恭平/増野亜子/神保夏子/小塩さとみ
1 本書の問い
2 競い合う場としてのコンクール
3 コンクール文化を論じる
4 本書の構成
第1章 エンターテインメントとしての国際音楽コンクール――第十八回ショパン国際ピアノ・コンクールのウェブ配信をめぐって 神保夏子
1 ショパン・コンクールとは何か
2 配信とエンタメ化
3 「才能は始まりにすぎない!」
4 ヒューマンドラマに魅せられて
5 登竜門というエンターテインメント
第2章 オーディション番組の生存と越境 吉光正絵
1 オーディション番組への注目
2 韓国発オーディション番組の特徴
3 審査基準と選抜方法の変遷
4 審査過程の透明性と公平性の問題
コラム 近代的な「コンクール」の幕開け――十九世紀のパリ国立音楽院ピアノ科の場合 上田泰史
第3章 対戦競技化するダンススポーツ――スポーツ化と芸術化のあわい 垣沼絢子
1 対戦競技化するダンススポーツ
2 Dリーグというコンペティション――プロスポーツという枠組み
3 絶対評価の価値基準を攪乱する
4 相対評価が即興性と競技性を回復させる
第4章 ポールスポーツ大会による規格化とポールダンスの実践――ポールダンスの行方を決めるのは大会なのか、ダンサーなのか ケイトリン・コーカー
1 ポールダンスの歴史
2 ポールスポーツの確立
3 スポーツと夜のエンターテインメントとの攪乱――男性がポールスポーツ大会に出場しながらも、ショーパブで踊ることについて
コラム 闘えない人々の闘い――競技空間の外にいるインドネシア武術愛好者について 今村宏之
第5章 秋田県の地元一曲民謡大会にあつまる人たち――趣味になった民謡が生み出し支える場 梶丸 岳
1 秋田県での地元一曲民謡大会の成り立ち
2 衰退しつつある地元一曲民謡大会
3 なぜ地元一曲民謡大会はいまも続いているのか
第6章 発熱するコンクール――バリの伝統音楽グンデル・ワヤンの事例から 増野亜子
1 競技会と伝統音楽
2 コンクールが「種をまく」
3 コンクールの「熱」が教室を生み出す
4 コンクール独自の演奏スタイルが生まれる
5 勝負の場としてのコンクール
6 コンクールの「額縁効果」
7 車輪が回る
コラム 伝統音楽に人々を巻き込む仕組みとしてのコンペティション 水上えり子
第7章 海を渡って琉球古典芸能コンクールに参加すること――ハワイの沖縄系人を事例に 澤田聖也
1 ハワイの沖縄系人
2 ハワイでのコンクールの認識
3 ハワイの沖縄系人にとってのコンクール
4 コロナ禍でのコンクール
第8章 学校とコンクール――競い合いのなかで何を学ぶのか 小塩さとみ
1 コンクールの仕組み
2 コンクールはなぜ定着したのか
3 コンクールをめぐる「物語」
4 もう一つの「物語」
第9章 「バレエ大国」ニッポン――発表会文化の連続性として 宮入恭平
1 国際バレエコンクールが意味するもの
2 「バレエ大国」ニッポン
3 発表会文化とは何か
4 発表会文化の連続性として
ほか
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