内容説明
【第36回小説すばる新人賞受賞作】
定時制高校に通いながら無職の父に代わり働く耕一郎は、ある冬、苦労して貯めた八万円が無くなっていたことに気づく。
このことを父に問い質すと、父は金を使ったことを悪びれもせずに認めた上、予想を超える衝撃の言葉を言い放った。
衝動的に父を殴り飛ばした耕一郎は、雪の中に倒れた父を放置して故郷を逃げるように去る。
しかし、僅かな所持金は瞬く間に減り、逃亡生活は厳しくなる一方。
遂に金が底をつき、すべてを諦めようとしたそのとき、
「……なに、訳あり?」
公園の隅、小さなホームレスの溜まり場から、ひとつの手が差し伸べられる。
出会いと別れを繰り返し、残酷な現実を乗り越えた先、故郷へと帰る決意を固めた耕一郎を待ち受けていたものは――。
社会から切り離される圧倒的な絶望と、心と心が深く繋がるやさしさを描いた、25歳の若き著者による感動のデビュー作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シナモン
111
思い違いがもとでわずかな所持金を手に故郷を逃げるようにあとにした主人公のその後の数奇な人生の物語。社会から自分の存在を消し、どこまでも落ちていく姿に目が離せなくてぐいぐい引き込まれた。どん底生活でのさまざまな出会いと別れ、そのたびにわきあがる感情が丁寧に描かれる。過酷な生活のなか、温かい人と人との繋がりに感動でした。 2024/04/04
ゆりあす62
105
★★★★☆ 回り道。心ない父の言葉に父を殴り、雪道に放り出し家を出た主人公。定時制の高校に通っていた。戸籍もなく未成年。父殺しで警察に追われているかも知れないという恐怖から浮浪者に。そこから始まる彼の人生はある意味学び。好きな地図を見ることに例えれば、いろいろな生き方を、人の旅を見せて貰っているようなもの。彼の回り道のような人生も他の人の人生を見て、その人の心に触れて気づくこともある。どの道が正しいのか分からないし、ましてや、早道なんて無い。現実を受け入れた彼のこれからの生き方が大切だ。2024/05/18
やっちゃん
90
面白かった。NHKのドキュメントを見てるよう。主人公が誠実であることがなにより気持ちよく、現場が現場だけにもっと辛い裏切りにあうのではと心配だったが、なんてことないいい人ばかり。そういう彼だからいい出会いがあったのだと思う。2024/09/25
NADIA
82
アル中でギャンブル依存症の父親から逃げるために貯めた8万円を父親に奪われ、あまつさえ同い年の彼女に乱暴してやったとまで聞かされた主人公。逆上して父親を失神するまで殴りつけそのまま雪の中に捨て、取り戻した二万円を持ちそのまま逃亡生活へ。たどり着いた東京でホームレス生活を送ることになるが持ち前のコミュニケーション能力と体力とで、偽名を名乗りながらも徐々に安定した生活を送れるように。彼の頑張りを応援しながら迎えるラストにはある種の衝撃を受けるが、読後感は気持ちいい。2024/10/02
シャコタンブルー
73
「これがデビュー作とはまた凄い作家が誕生したものだ」多分この文言は5回くらいこのレビューで発していると思う(笑)高校生の耕一郎の刹那的で愚かな行動がもたらす悲喜劇を存分に堪能した。人の道からドロップアウトしてしまう経緯と拙い思考があまりに悲しい。それでもホームレスになっても一途で優しい性格が幸いして周囲に助けられ日々を生きていく。「世界を悪者にしてはいけない」誰かのせいにしたり悲観しない姿勢に共感しエールを贈った。魅力溢れる登場人物と巧みな構成もよかった。まだ20代の作者の素晴らしい才能に乾杯。2024/04/10
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