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内容説明
世界は広いが、それぞれの生き物が生きることができるのは、ほんの小さな場所である。チーターは開けた草原にしか棲めないし、モンシロチョウはもっぱらキャベツ畑を飛んでいる。生き物の居場所は、なぜ決まっているのだろう。これまで餌や配偶者の存在などの理由が考えられてきたが、実は天敵がいないことが何よりも大事だ。様々な生き物を例に、生き残るための巧妙な知恵を紹介する。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえぽん
42
チョウの専門家が、動植物の生態に係る思想・研究の歴史を自らの研究も含め紹介した本。キリスト教的な天地創造や種の分類学から始まり、種の生存競争の有無に関する学術史を説明。植物を食べる動物・昆虫は天敵の存在により密度が低く抑えられ、植物を巡っての競争はないという説が、生物のニッチは天敵との相互作用により天敵不在空間として存在するとの説に発展したが、近年、筆者を含めた研究により、天敵不在空間を巡って近縁種間で繁殖干渉という競争があることを検証。査読雑誌への掲載をめぐる攻防も詳述され、研究者達の執念が興味深い。2024/02/29
kuukazoo
17
「ニッチ」とか「隙間」という言葉が好きなので読んでみたがのっけから「種とは何か」から始まり分類学から進化論の研究史が展開され、生態学のフィールドワークや実験の話になっていくのでこれはガチめの生態学入門書やんと気づき読むのやめよかと思ったが「擬態」や「天敵不在空間」や「繁殖干渉」など興味深く読了。思ってたのと違ったが勉強になった。著者の専門がチョウの生態学でモンシロチョウの異種間の攻防や天敵寄生バチとの関係などチョウを見る目が変わりそう…お呼びでないオスにつきまとわれるスジグロのメスさんの困惑を想像する。2024/08/23
メロン
10
本書は、生物の生息地の決定要因として、単なる餌や繁殖相手の存在ではなく「天敵の不在」が極めて重要であると論じる。捕食者のいない空間、すなわち「天敵不在空間」こそが多くの生物の生存の鍵となっていると述べる。企業間競争のようにニッチ空間とこの天敵不在空間が生物の居場所を決める重要な要素となる 加えて、「繁殖干渉」と呼ばれる現象が、生息地の選択や種の共存にも影響を与えることが示される。交配不可能な種同士の交尾それ自体やよしんば生まれてもライガーのように繁殖能力を持たないか子孫が生まれ結果的に種は残らない。2025/06/19
嵐 千里
6
学説史的な文章だが、主張・提唱を論者とともに要領よくコンパクトにまとめており、学説の概観の見通しがよく解る内容。著者の発見が、学術誌に掲載されるまでの顛末、いわば楽屋話もあって興味深い。 進化論=ダーウィン『種の起源』と考えがちであるが、学説は遥かに進化しており、否定的な取り扱いの今西錦司の「棲み分け理論」の再考に至る過程は驚きを以て読ませる。 本書を読むかどうかを判断するには、終章を立ち読みすることをお勧めする。2024/04/07
乱読家 護る会支持!
5
狩猟採集時代のヒトは、本書で書かれている他の生物同様、「天敵不在空間」であるニッチを探して生きていた。しかし、ヒトは田畑を耕すなど、地球環境を作り変えることで、居場所を増やし、ニッチに頼らない生き物となった。 平地を増やして食糧生産量を増やし、道路を作ることで地域をまたがった食糧受給が出来るようになった。そして、ヒトという種の個体数は爆発的に増えていった。 しかし、地球環境を作り変え続けることにも、限界がきている。 起こりうる「不都合な未来」をヒトが予測することは難しい。2024/10/11