内容説明
ミュージシャンの夢を捨てきれず、親からの仕送りで怠惰に暮らす、29歳無職の宮路。ある日、余興の時間にギターの弾き語りをするために訪れた老人ホーム・そよかぜ荘で、神がかったサックスの音色を耳にする。演奏していたのは年下の介護士・渡部だった。「いた、天才が。あの音はきっと、俺を今いる場所から引っ張り出してくれる」――神様に出会った興奮に突き動かされ、ホームに通うようになった宮路は「ぼんくら」と呼ばれながらも、入居者たちと親しくなっていく。人生の行き止まりで立ちすくんでいる青年と、人生の最終コーナーに差し掛かった大人たちが奏でる感動長編!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mae.dat
271
『あと少し、もう少し』のスピンオフ第2弾。派生元作品を読んでおいた方が楽しめる部分もありますが、マスト条件では無さそうです。ほら儂、登場人物を名前で無く、行動や口調、雰囲気で判別するので。出だしのノリで、バスケやってたジローが主役かなって思った。でも何か違和感があるよねー。って思ったら、準主役の渡部くんの方かーい。主役の宮路くんは音楽の夢を捨て切られずぐだぐだしてしまった系の方。埋もれた天才サックス奏者を見つけてしまい、物語が始まるのですけど。ラストでも違う天才を見出して。その審美眼はどっちなんだろうね。2023/12/06
あすなろ
117
体が水を欲する位の勢いであの音を聴きたい。そんなサックスの音が開幕の音となった彼の独り立ちの物語。音楽と介護施設における触れ合いが彼を変えていく。純粋に爽やかでいい小説だと思った。僕から見れば甘ったれるなとは言ってしまうのだが。しかし、どんな青年も何らかの方法で大人になる。そんな過程が中編小説として綺麗に読み易く流れていて読んでいて気持ち良い一冊。2023/12/16
サンダーバード@読メ野鳥の会・怪鳥
100
(2023-151)人の出会いというものは面白いものである。ミュージシャンになるという夢もいつのまにか消え、無職のまま無為に暮らす宮路が「神」とも言える音と出会えたのはボランティア訪問先の老人ホーム。彼を「ぼんくら」呼ばわりする口の悪い水木の婆さんの「息子」になったり、介護士である渡部のサックスとのホームでのセッション。宮路は根はいい奴なんだろうけど、いい歳していつまでもフラフラとして「しっかりしろ!」と怒鳴りつけてやりたくもなるが、目が覚めたかな。最後の水木の婆さんの手紙にはグッときた。★★★★2023/12/16
ふう
77
重いテーマを扱いながらも表現が温かく穏やかで、心地よい作品でした。ミュージシャンとして生きていきたいと願っている宮部。その思いは純粋だけど、多分そこまでの才能は無いのかもしれません。でも、彼が介護士渡部のサックスを聴いて感動したとき、本当に音楽が好きなのだなと思いました。そして素直だなあと。その素直さがきっと渡部にもホームの入居者たちにも伝わったのでしょう。彼らとの関わりの中で交された言葉や思いが、すべての人の胸の扉をたたきます。「ぼくを一人で葬儀場に行かせないでください」渡部にも友だちができてよかった。2024/03/27
Kazuko Ohta
70
はたして瀬尾さんは朝ドラ『ブギウギ』のヒットを見越して本作をお書きになっていたのか。主人公の宮路は全くもってアカン奴。29歳無職で資産家の親のスネを齧り、「仕事がカネのためならば、俺は働く必要がない」などとのたまう。老人ホームで働く渡部のサックスに魅了されたのはいいとして、自分だけの都合で渡部を振り回そうとします。だけどまるで振り回されない渡部が凄くイイ。宮路のことが好きになれずに読むのをやめたくなるところ、瀬尾さんだもの、最後はちょっといい奴になって泣かされることが目に見えている。私の心も揺さぶられる。2024/01/01