内容説明
母の死を機に生きる意味を見いだせなくなった槐は、川越で染織工房を営む叔母の家に居候していた。そこに、人気の女性画家・未都の転落死事件に巻き込まれ、心を閉ざした従兄弟の綸も同居することに。藍染めの糸に魅了された綸は次第に染織にのめり込んでいく。ある日不審な男が現れ、綸が未都の最後の言葉を知っているはずだと言う。死の謎を探りながら、槐は「なぜ生き続けなければならないのか」という問いに向き合っていく――
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
しんごろ
261
“生きる事がつらいとか 苦しいだとかいう前に 野に育つ花ならば 力の限り生きてやれ”と、松山千春の『大空と大地の中で』の歌詞を思い出すような川越を舞台にした物語。今の世の中、確かに生きづらい。自分も死んでもいいかなと思った時があった。染織を通して、生きるとは何かを問われた物語でもあったと自分では思う。この世に生を受けたならば、意味がなくても、目標がなくても、今をがむしゃらに生きればいいではないか。だって、それが人間だもの。byせんだみつお。……ち、違ったby相田みつをだった。足掻いて生きていこうぜ!2024/05/27
いつでも母さん
172
死の恐怖・・生きることの不安。静と動。強と弱。糸を染め経糸と緯糸の組み合わせで布が出来るまで。染織という世界の一端を垣間見た。織りなす布は誰かを暖めうるかもしれないと歌にもあったなぁ。これは家族や親子という枠で括れない各々の再生の物語。何者にもならなくたっていいんだ。生きていくのがまぼろしでも誰かに何かを渡せるなら。「追いかけていくことが生きていくことだから」はっとさせられる言葉は胸に残る。最後までこの姿で何かが伝わりますようにと、いつか来るその時を思ってしまった。綸と槐そして伊予子といつかまた会いたい。2024/02/11
KAZOO
148
ほしおさんの手作業がらみの本でわたしは印象に残りました。今までに活版印刷、紙に絡む話、金継ぎなどの仕事の話を読んできたのですが、今回は染織工房でさらには機織りなどについていることができました。これに絡む様々な家族や事件のような話があるのですが、それよりも藍染め紬織りなどの話が若い人を絡めていて希望を感じさせてくれました。2025/01/24
hiace9000
145
古来より人は草木や生物の生命をもらい糸を撚りだし、それを憧れる色に染め上げた糸で機を織り、着物として色を身にまとい身のまわりを色で飾ってきた。何もないところから幾星霜を経ても残る何かを残すこと、またその過程で何かを生み出し見つけること…「生きる」とは何ものでもないまぼろしを追って機織り、営々と紡ぎ続ける作業のようだ。他の動物が持たぬ"死を想像する"叡智を得たことで、人は死ぬことの怖さを知り、同時に生きることの意味やその苦しみと理不尽を知ることになった。各々の綴り織りなす「生」の色合い、それを静かに味わう。2024/07/29
あすなろ@no book, no life.
130
ほしお氏の既読の作品達とは少し違う感触を得た作品。導入部から静かな作品だなと感じていたのだが、後半部は違う感触を得た。基調として描かれている機織りと染めと着物の世界も興味があったが、それよりも幻を追い掛け生きていく事への気付きと自己肯定感を漸く誰もが得ていく事。そんな事を機織り他から描きたかったのではないか。書き下ろし作品でもあり、少し今迄とは違う味を描かれたかったのではないかと勝手ながら感じつつ読了したのである。2025/01/12
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