内容説明
どんぐりの落下と発芽から「ここに在る」ことを自問するリスの青年。衰弱した弟との「間柄」のためにニワトリを襲うキツネのお姉さん。暗闇から光の世界へ飛び出し、「存在の本質」を探すコウモリの男の子。日本・南米の生き物たちが見た「世界」とは? 映画化された世界的ベストセラー『あん』著者による構想50年の渾身作は、動物の生態に哲学のひとさじを加えた21のストーリー。スピノザから老子まで哲学の入門書よりやさしく学べて、明日を「生きる」意味が見えてくる。
目次
第1話 クマ少年と眼差し
第2話 キツネのお姉さん
第3話 確かなリスの不確かさ
第4話 ボスも木から落ちる
第5話 一本角の選択
第6話 コウモリの倒置君
第7話 クジラのお母さん
第8話 モグラの限界状況
第9話 ウリ坊の恥
第10話 絶滅危惧種
第11話 スローな微笑み
第12話 最後の思い出
第13話 バクの茫漠たる夢
第14話 転がる小さな禅僧
第15話 ペロリン君の進化
第16話 おじさんにできること
第17話 ビクーニャとコンドル
第18話 イグアナ会議
第19話 ゾウガメの時間
第20話 飛べない理由
第21話 対話する鳥(あとがきに代えて)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
えも
28
世界各地の動物たちに、生きていくうえでの思いを語らせると、それは畢竟、哲学になるのですね。しかも彼らの生態を丁寧に描写していて、良質な解説書にもなっています▼ドリアン助川さんって、名前を聞いた段階で勝手にお笑い芸人と思っていたので、これまで読まずにいました。どうも失礼をば致しました。2024/01/14
りらこ
26
思考や行動を言語化することで、かれらの存在が私たち人間との共通部分、いやむしろ彼らのほうが粗削りではあるけれども賢く、自分の特性を生かすことからの深い思考を可能としているのではないか、短編1篇を読むたびに、鈍器で軽く殴られながら読んだ。命のありかた時にそれは厳しく、はかなく、非力である。どうしようもなさを理不尽ととらえず、争わないことを無敵とする。おそらく何度も繰り返してよむうちに、好きな短編、向き合うことに逃げたくなる短編がでてくると思う。たとえ鈍器で毎回殴られても、それでも。2023/10/30
toto
17
たくさんの希少動物の生態や自然環境、そして心情がコミカルにシビアに描かれている一冊。 童話っぽい語りが想像させてくれる。 クマにおたま持たせて視力測定?考えるヒトならぬ、考えるアリクイのポーズってどんなだろう? 反対に命を終える者は割と淡々とした事実で述べられ、感傷的になる暇もない。捕った方にしたら明るい話だし。 ナマケモノ🦥、ジャガー🐆、ゾウガメ🐢、ペンギン🐧の章が特に好き。再読したら変わりそうで楽しみ。挿し絵の版画も素敵なので、いつか買いたい。2024/02/13
冴子
16
友人のオススメ。簡単な文体で綴られた動物をモチーフにした哲学的な短編集。動物に実際に頭脳があるかどうかは別として、生活の悲しみや苦労が偲ばれ、哲学って身近なものから入るとわかりやすいのだと思った。2024/05/14
taku
15
様々な動物たちが自我を持ち、存在、意味、認識などを考える哲学的寓話。深く追究する内容ではなく、柔らかな目線と動物物語としての軽妙さが思考を窮屈にさせず読みやすい。自然界の厳しさを描き、生きていく希望も感じさせ読後は沁々する。擬人化は、その存在に人間を、その世界に人間社会を重ねさせるもの。確かに在る私は、不確かさや他者との間柄を楽しみ、悩みながら、どう生きていくかを考えていこう。ドリスケさんの著書、他にも読んでみたくなった。2024/09/16