内容説明
ある事件以降、引きこもっていたしふみはテレビのなかに「おねえちゃん」を見つけ動植物園へ向かう。言葉を機械学習させられた過去のある類人猿ボノボ”シネノ”と邂逅し、魂をシンクロさせ交歓していく――”わたしたちには、わたしたちだけに通じる最強のおまじないがある”。
幻想と現実が互いに侵蝕していく圧倒的筆致。
人間存在の根源的な闇に光をあてる”唯一無二の才能”。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
220
第170回芥川賞候補作・受賞作第五弾(5/5)全作コンプリートです。小砂川 チト、2作目です。猿の惑星的な話かなと思いきや、類人猿ボノボシンクロ小説でした。少しもやっとした感じです。全五作読み終わりましたが、結果として受賞作は、今が旬ということもあり、「東京都同情塔」で良かったのかも知れません。 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=00003860602024/02/22
シナモン
95
群像2023年12月号で読了。競歩選手の女性、しふみと人間に言葉を学習させられた動物園のメスのボノボ、シネノの心の交流。難しくて世界観に入り込むのに苦労したけど途中から分からないなかにもぐわーっとした高揚感に包まれ引き込まれた。猿と人間、どっちが上なんかない。その違いなんて紙一重。2023/12/23
いっち
51
主人公は女子競歩の選手。大会で失格になった。故意による妨害に見えたのと、テレビ中継されたこともあり、バッシングは広がる。主人公は引きこもる。偶然テレビで手話をする猿を見る。主人公が幼少の頃、交流があった猿だった。主人公はその猿と言語訓練を受けていた。言語訓練なので身体を使ったコミュニケーションをしたら、研究者に叱られる。叱られた主人公を、猿は励ましてくれた。王冠のジェスチャーで。励ましてくれる存在。他者ではなく、自分で自分を励ますのよという励まし。自分で王冠を載せる。それでいい。自分がそう感じたならいい。2023/12/31
ヘラジカ
45
またもや驚異の怪作・力作である。読み始めは前作と同様、小砂川ワールドに入り込むまでには若干苦労したが、朧気ながらも作者の意図のようなものが分かり始めた途端、否応もなく呑まれてしまった。私個人は遊離したペルソナを知性的に劣る(とされる)類人猿に投影していると解釈したが、正解はともかくとして、分裂する自意識、理性と本能が肉体から剥がれ、暴走する描写の説得力は凄まじい。社会集団が見る表層と自らが統御している内面の軋轢を見た。終盤での”並走”、ラストの戴冠式には思わず唸り声を上げてしまうような力感が溢れていた。2023/12/16
tenori
38
冒頭、言語教育を受けるチンパンジーとボノボを見守る人間の緊迫感。その視線の一つは幼少期の主人公・しふみのものであり、彼女はガラス越しのボノボ(=シネノ)に自分を見ていた。競歩の五輪選考レースで妨害行為に及びバッシングを受けるしふみだが動物園でシネノと再会する。無音の交流を育み、やがて動物園からの脱走を企てたシネノの行動に再び自分自身を投影する。監視され囲われた世界から飛びだそうとするしふみの選択は希望がある。冠が何を意味するのかをじっくり考えたい。小砂川チトさんは破滅すら肯定する。難解だが面白い。2024/12/26




