内容説明
森がどんどん消滅していく──植民惑星ニュー・タヒチでは、地球に木材を輸出するため、大規模な伐採作業が進められていた。利益優先の乱開発で、惑星の生態系は崩壊寸前。森を追われた原住種族アスシー人は、ついに地球人に牙をむいた! だが、圧倒的な軍事力を誇る地球人に、アスシー人の大集団も歯がたたない……二つの知的種族とその文明の衝突が生む悲劇を、神話的なモチーフをたくみに用いて描きあげるヒューゴー賞受賞の表題作ほか、辺境の植民惑星に生まれた一人の多感な少女の成長を静謐なタッチで綴る佳品「アオサギの眼」を併録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
波璃子
25
ハイニッシュ・ユニバースシリーズ。「世界の合言葉は森」と「アオサギの眼」の2編。支配者と非支配者、虐げる者と虐げられる者の悲しい対立が主なテーマだった。テーマ的にはきつい内容ではあるがそこに民族性や人間性を織り込んでただ悲しいだけでは終わらせないところにル・グィンさんらしさを感じる。シリーズのなかでもお気に入りの作品になった。手に入れづらいのがとても辛い。2016/01/21
Ribes triste
14
「世界の合言葉は森」「アオサギの眼」の中編2作。ル・グインは目を逸らすことのできないほど、残酷な状況を見せつけてくる。その状況を乗り越えて、生きるにはどうすべきか。人にはそれを考え、解決する力があるはずというメッセージを感じる。どちらも良作でした。2020/03/13
作楽
11
なんだろう、もっと考えなさいよって言われてる感じがした・・・。物語はそう複雑ではなく、異星人と地球人の対立、しかも、地球上ではなく、人間が侵略?の形で。2015/05/26
DEAN SAITO@1年100冊
10
闇の左手などの成熟した後期作品では、現代社会のステレオタイプへの痛烈な、かつ巧妙に作品世界の設定の内に隠匿された皮肉といった形で現れていたル・グインのフェミニズムは、珍しくこの作品では比較的直接的に現れている。他の作品と比べて、支配者と非支配者といった対立軸も明確であり、物語の展開も比較的直線的。後期の作品を先に読んでしまっているからかもしれないが、作品によってそれらを書いたときに重きを置く力点が時期によって異なっているように思われるのも、ル・グインの面白み。2019/03/07
roughfractus02
9
至る所に対立が拡大する現実を、物語はまだ生じない社会を設定し遠大な時空に置いて、その生成の系譜を辿る。夢見による女性が統治するシャーマニズム社会を破るのは植民地主義の軍隊だが、この残酷な異文化接触を男性と女性、戦争と平和、自由と民主主義の対立の寓意と捉えれば対立の系譜は蔑ろにされる。物語はその萌芽が他との遭遇と名付けにあると語る。夥しい人の移動が他を対象と捉え、自己の言葉で他を名付け共有されると他との対立が始まる。多文化共生が見込めない場合を想定した本書は、相互の不利益の分有という和解ビジョンを構想する。2023/12/26