内容説明
年のはじめに受け取る不思議な懐かしさの電話.折々の手紙・読書・出会いを通じて届く思いがけない呼びかけ.それにこたえる心の中での新しい動き,深められていく生と死への想いを,人生の挨拶として綴ったエッセイ集.物語りをする仕方で生きてきた小説家としての人生を顧みるエッセイ「生きられた人生の物語」を新たに加筆.
目次
チャンピオンの定義
死んだ人々には、慨く術もない以上
「チンドン屋」
現代伝奇集
心理療法家ヴァージル
星座をつくる
アイルランドの飛行士が死を予見する
犬を殴る父
緑の壁
痛みを思い出す
フルートとピアノのための「卒業」
ハワイ島の「雨の木」
原広司の大瀬中学校
火ぞ沈む、われ何時の日か鹿島立たむ
「無垢なもの」、光の音楽
返礼
ラングステットルンドの山毛欅
しかも(私の魂)は記憶する
病める子供らのための
カトーの藺草
生きられた人生の物語
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
i-miya
23
2010.07.03 (生きられた人生の物語) (大江健三郎・あとがき的) 『図書』連載。武満徹氏の死-もう一度長編小説へ向かうこと(1997秋) ◎チャンピオンの定義。ブリュッセルの楡の木を見に来ませんか、というEC大使館主。2010.07.04 兄を上座にして弟妹たちと姉たちの座る夕べ。語義か?ひとつ上げておみや、と兄はとりなす。CDD(Concise Oxford Dictionary)に「Chanpion」=ある人のために代わって戦ったり、主義主張のために代わって議論する人。2010/07/05
タイコウチ
6
このところ大江健三郎の小説ばかり読んでいたが、比較的最近のエッセイでもと思い立ち、読んでみた。岩波書店「図書」(1992-93)に連載(最近とはいえ、30年前か!)。「雨の木(レイン・ツリー)」など小説の背景となるエピソードも多いが、「私小説」的創作ではほとんど言及されない早くに亡くなった実兄のことなど、率直で胸を打つ話もある。いずれのエッセイも、短篇小説のような語りの妙もあり、エッセイなのかフィクションなのかという区別も、大江作品という宇宙の中で自分でもあいまいになっていくのだろうという予感がある。2023/07/31
belier
4
92年から93年に書かれたエッセイ集。小説に膨らませた実際に起きた出来事とか後日談めいたものとかがあり興味深い。ある回では小説の登場人物のように大江作品に鋭い突っ込みを入れる女性が出て来て、これはエッセイでなく小説か?と思った。大江も私小説に近いエッセイとあとがきで書いている。93年1月に亡くなった安部公房を追悼している文では、安部にはノーベル賞を受賞する可能性があったと書いている。翌年、大江自身が受賞したのだった。チェコスロバキアにソ連の戦車が入ったときは、大江と安部で大使館へ「弔問」に行ったという。2022/06/12
いのふみ
3
無粋ながら、大江さんから教わったことは、自分のことばで現実を認識し、そして乗り越えてゆくことだ。2015/11/04
いのふみ
2
人によるとは思う。大江さんの作品、特にエッセイには誠実さを感じるのだ。それは氏が渡辺一夫氏の薫陶を受けた人であることよりも、断定的な口調をほとんど用いない、しなやかな姿勢とことばで現実を認識していることから感じられる。2015/11/09