内容説明
明治時代の湘南といえば、大磯だった! この地には、明治20年代後半から、伊藤博文、大隈重信、陸奥宗光などの大物政治家や、岩崎弥之助など経済人が別荘を建て、そこを目指して多くの人が集まるようになった。また大磯は、日本初の海水浴場として、老若男女が集う一大リゾート地だったのである。本書は、この地をこよなく愛し、後に宰相となる少年・吉田茂と、謎の隣人・天人(あまと)の二人が、別荘地で起きる様々な事件を解決していく連作活劇ミステリー。茂が少年時代を過ごした吉田家の別荘は、父・健三によって「松籟邸」と名付けられていた。一方、隣人・天人が住んでいたのは、瀟洒な洋館。アメリカ帰りとも思えるこの若者は、一体何者なのか。そんな天人によって人間性を育まれた茂は……。『天離(あまさか)り果つる国』で注目を集めたエンタメ作家が、虚と実を巧みに織り交ぜて紡ぎ出した「明治浪漫」。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
125
少年吉田茂が奇妙な隣人と関わったおかげで怪事件に巻き込まれるストーリーは、実在の著名人が相次ぎ登場するなど明らかに山田風太郎の明治物に倣っている。表向きは落ち着きを取り戻したかにみえる明治中期の大磯でブルジョア生活を送る吉田だが、アメリカ帰りの隣人に導かれるように、まだ維新の敗者の傷は癒えず報復の機会を窺っている事実を教えられていく。未来の大宰相が初めて宰相学を学ぶ姿は教養小説の変種であり、その点は山田作品にない新しさだが、吉田が十代という設定のせいか明るいジュブナイル小説を読んでいる感じが拭えなかった。2024/01/15
Atsushi Kobayashi
23
吉田茂のころの時代の話がないので、興味津々です。 大磯もう1回行かなきゃと思う次第です。 残念なのが、次巻がでるのがずーっと先。はやく続きがみたいです。2023/11/27
rosetta
22
★★★✮☆2023年刊。吉田茂の少年時代の話だが伝記などではなく、まるでトムソーヤのようなトラブルと冒険の物語。知らなかった知識が増えるのが楽しい。茂は生まれるとすぐに吉田家の養子になった。父はわずか40で亡くなり、茂は11で吉田家の当主に。その遺産は帝国ホテルの総工費の倍額にもなるというから現在の価値に直したら数千億!?大磯の吉田家の別荘松籟邸の、川を挟んで隣に建てられた当時珍しい洋風の建物、五色の小石荘の主人はパナマ帽に上下白の洋装に身を包んだ天人シンプソンと名乗る日本人。二人は年齢を超えた友情を育む2025/08/25
信兵衛
21
時代は明治、まだ幕末の気分や当時の怨念を未だに引きずる人間もいて、そうした処から事件が起きたりもします。 また、大磯という場所、維新の元勲、実業家といった貴顕たちが多く別荘を構えていることから、歴史上の有名人物たちが次々と顔を見せ、それによるゴタゴタもある、といった次第。 そうした舞台設定であるからこそ、本ストーリィ、すこぶる面白い、という訳です。2024/01/21
そうたそ
13
★★★☆☆ 歴史小説や時代小説のイメージが強い著者だが、本作は少年時代の吉田茂が様々な事件に直面する様を描いた一風変わった作。謎の隣人・天人の存在も魅力的で、史実とフィクションのバランスが絶妙。知っている偉人の名が次々登場するのも面白い。事件は起こるが、ミステリというよりは青春活劇と言うべきか。全三巻予定とのことだが、今度吉田少年はどこまで成長していくのか楽しみなところ。2024/02/29