内容説明
〈「2000年代韓国文学における最も美しい小説」ついに邦訳 〉
「暴力あふれるこの世界で、好きでいられる(もの)なんてほんの少ししかない」
強大な力によってかけがえのない日常を奪われながらも、ひたむきに生きる2人のあたたかで切ない恋物語。
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大都会の中心に位置する築40余年の電子機器専門ビル群。
再開発による撤去の話が持ち上がり、ここで働く人たちは〈存在していないもの〉のように扱われる。
──弱き者たちに向かう巨大な暴力。
この場所を生活の基盤とするウンギョとムジェを取り巻く環境はきびしくなっていく。
しかし、そんな中でも二人はささやかな喜びで、互いをあたたかく支えあう。
2人が歩く先にはどんな希望が待っているのか……。
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僕は鎖骨のくっきり浮き上がった人が好きです。
そうなんですね。
好きです。
鎖骨がですか?
ウンギョさんのことが。
……あたし、鎖骨とかぜんぜんくっきりしてないけど。
くっきりしてなくても好きなんですから、ほんとに好きなんですよ。
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【目次】
■森
■つむじとつむじとつむじではないもの
■口を食べる口
■停電
■オムサ
■恒星とマトリョーシカ
■島
■あとがき
■ふたたび、あとがき
■訳者あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
25
大都会の中心に位置する築40余年の電子機器専門ビル群。再開発による撤去の話が持ち上がり、ここで働く人たちは〈存在していないもの〉のように扱われる。地名が一切出てこないが、韓国人ならすぐわかる。本編は龍山惨事を扱った作品だ。龍山惨事は2009年1月20日早朝、ソウル龍山区漢江路2街の南一堂ビルの屋上のコンテナで、立ち退き住民らと鎮圧警察の衝突で火災が発生し、立ち退き住民5人と警察1人が死亡した事件だ。調査委員会は龍山惨事当時、過剰鎮圧と世論操作があったことを明らかにしたが、誰も責任を取る者がいない。 2024/02/01
lisa
12
鉤括弧のない世界で進む物語は詩のようで、閉ざされ内に向いたとても静かな作品だった。今、そこにいる人々の、今を生きる姿を淡々と綴っており、そこに特別な事は何もないけれど、読んでいて涙が出そうになった。貴方が、私が、ここに居る、そんな作品。2024/02/19
鬼頭
7
ファン・ジョンウンさんの書く、今はもうない(?)韓国の電子部品や音響修理専門のビル街の話が、いつもとても丹精で、静謐で。秋葉原とか、名古屋で言ったら大須とか、今も昔も雑多なイメージだけど、それはもしかしたら韓国の電子ビルの情景も雑多で、作家の文体なのか。 2023/12/31
二人娘の父
6
著者の得意とする「影」。その「影」が作中、存在感を発揮する。主役の2人の生活への視線はあたたかく、やさしい。同時に生活の周辺は決して優しいとは言えない状況にある。そこに顔を出す「影」たち。世運商街という秋葉原と大田区の町工場をセットにしたようなイメージの街が舞台。実際に著者もその街で育ったとのこと。その街のエピソードも物語の深みを増す役割をうまく果たしている。本書には「2000年代韓国文学で最も美しい作品」的な評価がされているとのこと。その年代の作品はあまり知らないが、美しいという評価には納得である。2024/03/13
石
6
どこか浮世離れしているが、日々を誠実に生きる登場人物たち 奥ゆかしくてじれったい主人公の二人 でもそこがいい 悲しいことばかりの世の中でも、こんな美しい物語があってもいいのではないか 詩のように繊細な文章も素晴らしい2023/11/03