内容説明
〈「2000年代韓国文学における最も美しい小説」ついに邦訳 〉
「暴力あふれるこの世界で、好きでいられる(もの)なんてほんの少ししかない」
強大な力によってかけがえのない日常を奪われながらも、ひたむきに生きる2人のあたたかで切ない恋物語。
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大都会の中心に位置する築40余年の電子機器専門ビル群。
再開発による撤去の話が持ち上がり、ここで働く人たちは〈存在していないもの〉のように扱われる。
──弱き者たちに向かう巨大な暴力。
この場所を生活の基盤とするウンギョとムジェを取り巻く環境はきびしくなっていく。
しかし、そんな中でも二人はささやかな喜びで、互いをあたたかく支えあう。
2人が歩く先にはどんな希望が待っているのか……。
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僕は鎖骨のくっきり浮き上がった人が好きです。
そうなんですね。
好きです。
鎖骨がですか?
ウンギョさんのことが。
……あたし、鎖骨とかぜんぜんくっきりしてないけど。
くっきりしてなくても好きなんですから、ほんとに好きなんですよ。
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【目次】
■森
■つむじとつむじとつむじではないもの
■口を食べる口
■停電
■オムサ
■恒星とマトリョーシカ
■島
■あとがき
■ふたたび、あとがき
■訳者あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
りつこ
28
「野蛮なアリスさん」の印象が強いのだが打って変わって静かな作品だった。 立ち上がる影は不安や絶望に飲み込まれそうになると出てくるものなのか。 親の代から続く貧困、先の見えない未来、失われる居場所。そんな絶望的な状況の中で、思い合い寄り添い合い相手が傷つかないように心を砕く。 励ましたくて笑顔が見たくてちょっと無理をする。自分も不安だけど相手が意気消沈していたら「大丈夫」と声をかけて手をつなぐ。怖かったら話をする、歌を歌う。ささやかな日常が続きますようにと祈るような物語だった。2025/11/20
星落秋風五丈原
28
大都会の中心に位置する築40余年の電子機器専門ビル群。再開発による撤去の話が持ち上がり、ここで働く人たちは〈存在していないもの〉のように扱われる。地名が一切出てこないが、韓国人ならすぐわかる。本編は龍山惨事を扱った作品だ。龍山惨事は2009年1月20日早朝、ソウル龍山区漢江路2街の南一堂ビルの屋上のコンテナで、立ち退き住民らと鎮圧警察の衝突で火災が発生し、立ち退き住民5人と警察1人が死亡した事件だ。調査委員会は龍山惨事当時、過剰鎮圧と世論操作があったことを明らかにしたが、誰も責任を取る者がいない。 2024/02/01
Nishiumi
19
心の暗部に気を取られると、いつの間にか自分の影に取り込まれてしまう世界。影が実体を持ち始めると黄色信号なのだが、みな気にしないようにして日々の生活を送っている。電気街で働くウンギョとムジェもそんな世界で慎ましく生きている。二人の会話は、言葉をひとつひとつ確かめながら、注意深く行われる。まるで暗闇の中を手探りで進んでいくように。陰鬱なことばかりの世の中だからこそ、ささやかな二人の幸せがろうそくの灯のように浮き上がってくる。ショーン・タンの絵本を手繰ってるような、ダークなんだけど暖かな、力強い物語。2025/02/11
lisa
15
鉤括弧のない世界で進む物語は詩のようで、閉ざされ内に向いたとても静かな作品だった。今、そこにいる人々の、今を生きる姿を淡々と綴っており、そこに特別な事は何もないけれど、読んでいて涙が出そうになった。貴方が、私が、ここに居る、そんな作品。2024/02/19
練りようかん
14
森を歩く男女。寄る辺のない気持ちが漂い、“いつまでも続いてるわけじゃないから”という言葉が示唆的で胸に広がった。借金を返すための借金、再開発の波、20何個のマトリョーシカが先の言葉から拡散された胞子に思え、夢現入り交じる世界観から読むほどに現実が勝った問題意識が鮮烈。ついていくと帰って来れなくなる影法師が、いなくなるなんて簡単でその可能性を右肩に感じながら人は生活しているのだと強く思わせた。つむじやスラムを例にした一緒くたにする言葉の暴力性が、ビル解体から造園への違和感とビチっと合ったのが興味深かった。2024/07/08
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