内容説明
臨床心理士になって四年の水沢藍を訪ねてきた聡美。 診察室に入った彼女は、何かに憑かれたように話し始める。同時期、藍はボランティアで英語を教えるため小学六年生の綾香を訪ねていた。 表情がないことに違和感を覚えたとき、手首に刻まれた何本もの傷跡に気づく。 綾香が発する‘サイン’とは――。両者の話を聴くうちに、 藍はある殺人事件の真相を知ることになる。 事件の背後で苦しむ人々の声を掬う、臨床心理士の物語。■著者からのコメント■すべてに白黒つける二項対立の世界で「生きづらい」と感じることが多くなりました。人が人として生きるために何が必要か。自分の中の汚いものを見つめながら、魂の底をえぐり出すようにして書きました。生きづらさを抱えるすべての人に捧げます。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夢追人009
262
臨床心理士の水沢藍は四年目を迎えており自身が旅先で死んだ兄の謎を心に抱えながら日々の依頼者へのカウンセリングに邁進している。息子にしてきた教育について後悔し悩む母親、ヴォランティアとして英語を教えに行った小学6年生の少女は手首に夥しい数の傷跡があった。彼女はどちらのケースにも明確な指針を見出せず悩んでいたが、ある日、この2つのケースに密接な関係がある事に気付くのだった。本書はは数年前に小学校で起きた痛ましい大量殺人事件をモデルケースとして書かれておりまして、簡単に答えの出せる問題ではないのですが、親と子の2023/11/09
パトラッシュ
157
理想を実現しようと努めるのは正しいが、努める自分も正しいと思い込むのは誤りだ。わが子に最高の学歴を与えようと奮闘する自分は正しいと信じ、教育虐待を行っていると気付かなかった母親に息子は殺人という最悪の復讐を果たした。彼に弟を殺されて苦しむ少女のカウンセリングをしていた臨床心理士は、加害者の母とも接触したことから全てを白黒つけずにはおかないネット社会の暗闇に相対する。情報があふれる社会で逆に判断力を失い、自他とも追い詰められる姿が生々しい。人の心は黒白さだかならぬ中途半端なグレイだと理解される日は来るのか。2023/12/27
いつでも母さん
154
私には絶対に務まらない職業(資格)の一つ・・臨床心理士。その藍から見た二つの家族。く・・苦しい。人は一面だけで形成されてはいないのがここでも浮き彫りにされる。ましてや親子の関係は一筋縄ではいかない。小学校で起きた大量殺人事件の被害者とその家族、加害者とその母親が藍を通して交差するのがドキドキしてしまう。どこで間違えたのだろう・・そう思う母の胸の内を、思い当たる節を自分の内にみる私がいるのだ。正解とか、白黒とか、理想と現実とか、突き詰めるざるを得ないこの社会の歪みは、いつも個人の問題とかたずけられてしまう。2023/11/25
おしゃべりメガネ
113
改めて作者さんの'本格派'レベルの違いを感じさせていただきました。とにかく読み始めると夢中になって、ページを捲る手が止まらなくなるのはある意味、シンプルながら読書の一番大切な醍醐味かもしれませんね。とある学園施設に突如として表れた不審な人影。その怪しげな人影が瞬く間に7人の児童を次から次へと殺生するオープニングから幕をあけます。そんな残忍な事件の被害者と加害者、両サイドの家族の苦悩を圧倒的な筆力で綴っていきます。テーマがテーマなだけに、なかなかダークな雰囲気で進みますが、しっかりと感動もできる作品でした。2023/12/29
ゆみねこ
81
兄の死から中々立ち直れない臨床心理士の水沢藍。そんな藍が出会った2つの家族。息子を追いつめた母親の聡美、母の愛を求めて自分を傷つける綾香。加害者の家族と被害者の家族。重い物語だが、臨床心理士・藍の成長と、ひたすら傾聴する姿はとても読み応えがある。現実に起きた事件を連想してしまい、そこは切なかった。2023/12/09