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内容説明
陽の差さない部屋で怠惰を愛する「僕」は、隣室で妻が「来客」からもらうお金を分け与えられて……。表題作「翼」ほか、近代化・植民地化に見舞われる朝鮮半島で新しい文学を求めたトップランナーの歓喜と苦闘の証たる小説、詩、随筆等を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
中玉ケビン砂糖
80
【節目の1000冊】「朝鮮文学(韓国文学)」というものを定義しにくいのはおそらく、その「地政学的側面での危うさ」と「アイデンティティとして拠って立つべき『言語』そのものの危うさ(だった)」と言っても差し支えないだろう。半島の歴史とはすなわち侵略とその攻防の歴史、薄氷を踏むかのような膠着と政治的緊張の歴史でもあるからだ。古くは漢語、倭語との混淆を経て植民統治下での帝国主義的同化政策、そして怒濤の勢いで流れこむ西洋近代的「モダン」感覚、やがてはハングルへの回帰運動……というように、2023/12/01
あじ
19
銀ブラしていた事が随筆から知れた上に、トッケビが登場する穏やかな童話まで読めるとは。その一方で時代の鬱屈さを内包する短編群の、萎縮した“翼”の石膏化と垣間見える若さの持て余しに文学の真髄を見た。李箱氏は日本統治時代の初年に生を受け、開放を見届ける事なく27歳でこの世を去った。 ◆日本に芥川賞あれば、韓国に李箱文学賞あり。◆併せて読むならアンソロジーエッセイ【僕は李箱から文学を学んだ】がお薦めhttps://bookmeter.com/books/170303492024/02/10
二人娘の父
9
難解でありながらも、多くの人びとに愛され研究され続けている作家・李箱(イ・サン、変換されない)。確かに難解だが、著者の生きた時代を訳者解説により学ぶことで、その奥行きと背景の理解の手がかりを得ることができる。日本で亡くなったという共通点がある尹東柱とも、また異なるところも興味深い。驚いたのは、結婚相手(ただし結婚生活は極めて短い)が後の金郷岸(有名な画家・金煥基の妻)!最近、李仲燮の事を知ったこともあり、その繋がりが薄い線から面になっていく感覚を覚えた。何より訳者・斎藤真理子さんの存在の大きさに感服した。2024/03/24
チェアー
6
李箱の小説や詩を読んでいて、芥川龍之介の影響を感じた。斜めに構えて虚無的に笑っているようでいて、現実はこの世に執着している姿。それらは、当時にあっては新しい世界だったのだろうし、この時代に生きた多くの人が同じ気持ちを抱いていたのだろうと思う。 2024/01/11
kadocks
5
訳者である斉藤麻理子氏の「朝鮮語と日本語の言語横断の可能性に挑みつつ、約七年という短い期間に精一杯活動した作家」である李箱の作品集。韓国小説を読む中で、韓国の芥川賞らしき李箱文学賞はハン・ガンで知っていた。時代や李箱の生涯をを切り離しても、非常にファンキーで驚く。漢字、日本語、韓国語であるハングルが混然とする作品を感じさせる訳がまず素晴らしい。訳注も非常に丁寧。暗黒の韓国史、日本史の中にこんな作家がいたのかと改めて自らの無知に反省。それにしても光文社新訳文庫がなければ出会えなかっただろう。感謝。2024/02/21
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