内容説明
「山谷」の鰻、「魚河岸」のナポリタン、
「深川」のめしや、「土手下」の焼肉、
「三里塚」のジンギスカン、「鹿浜」のホルモン、
「中山道」の立ち食いそば――。
巨大都市・東京の周縁で労働者が集まる「寄せ場」こそ、人間のあらゆる欲求を本能的にむき出しにさせ、
「食」と地続きで都市に生きる人間の「生」を作りあげている現場なのだ。
食べるという行為が内包する「食べる喜び」と「食べなくては生きてゆけない辛さ」を、「寄せ場」で二十数年にわたって飲み食いを続けてきたノンフィクションライターが活写した。
単なる消費のための情報ではない、切れば血の出る異色の「グルメ本」。
月刊『潮』で3年半にわたって連載され話題を呼んだルポルタージュが書籍化。
本書を読んだあなたは、今晩ひとりで赤提灯の暖簾をくぐりたくなるだろう。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
88
「寄せ場とは日雇い労働者が集まる場所」と著者は書いている。その寄せ場や周辺には安くて美味いものを食べさてくれる場所がある。この本では、東京の寄せ場である山谷地区にある店をいくつか紹介。また「食」を通して当局の光と影、焼肉とホルモンから見た社会現代史、現代の寄せ場はどこかなどが書かれていて興味深く読むことが出来た。地方都市でも、昔は日雇い労働者が集まる食堂があっと記憶している。酒屋でも、朝早くからコップ酒を呑んでいる姿を見かけたものだ。今はそれがラーメン屋やファミレスに代わりつつあるという。図書館本2024/10/22
きゅー
9
寄せ場とは「日雇い労働者が集まる場所」の意だ。寄せ場には、特定の住所を持たない労働者のための簡易宿泊所がひしめき「ドヤ」と呼ばれた。そんな場所にある飯屋の特徴は安く、早く、旨いだけではないという。寄せ場社会のめしやは孤独の吹きだまり。偏屈で頑固な店の主人、女将らは、団欒とは無縁の個として生きる人々を守る役目を果たしているという。著者は若い頃に家出をし、住み込みで重労働に耐えた経験がある。食には、食べる喜びだけではなく、食べなければ生きていけない苦しみがあるという。本書ではその両方に触れている。2024/07/02
長野秀一郎
8
どこそこのあれが旨いといった情報は簡単に入手できる昨今である。一方で腹ぺこで食う飯の旨さは格別だ。してみると一番旨い飯を食ってるのは、実は身体を酷使している労働者諸氏ではないか。寄せ場とはそうした労働者の集まる街である。つまり本書は旨い飯を紹介するのみならず、それをを旨く食う人々について書かれた本といって良い。併せて旨い飯の生まれた歴史―――部外者にとって苦いものでもありうる―――も語り、グルメガイドの地図に歴史という時間軸を加えている。読者のグルメ紀行に新たな味わいを加えうる佳作。都度再読したい。2024/07/24
DEE
8
主に日雇い労働者が集まる場所、寄せ場。そこで食されてきたものから寄せ場がどんな役割を担ってきたのかを考える。美食だのなんだのといっても、食べることって所詮は本能的で原始的なこと。人間の素の部分がよく出る。薄汚くて美味い店で肉肉しい焼肉が食べたくなった。2024/03/22
チョビ
7
ヘンな社会学者のそれよりずっと興味深い。社会的に身の置き場のない人たちのセーフティネットとしての食事処を取材。その食事処は家族のいる人、すなわち守られるべき小宇宙が存在する人が彼らを傷つけないため、寄せ場のルールを徹底する。食事処が彼らの親兄弟となって、外敵から守るかのように。ところが現在は社会全体が身の置き場のない人が増えていて、その食事処に異変が起きていることを静かに語る。そういう意味ではコリアンタウンや品川は「ビミョー」感漂うが、元寄せ場としての語りなんだろう。2024/04/10