内容説明
どこにでもある日常が、どうしてこんなに愛おしいんだろう。かけがえのない「今日」を描く、芥川賞・大江賞作家の最新作。
夫婦と5歳の息子が暮らす築50年の大型マンションに、今日もささやかな事件が降りかかる――。日本に「住む」すべての人へ、エールを送るマンション小説!
「しゅっ」「ぱーつ!」――5歳の息子コースケと僕たち夫婦は、今日も小さな冒険の旅に出る。子育てのため、郊外にある大規模マンション「Rグランハイツ」に引っ越してきた美春と恵示。管理組合の理事になった妻とリモートワークの夫は、築50年のマンションに集まり住む住人たちとともに、どこにでもあるけれど、かけがえのない日々を重ねていく。
目次
トゥデイズ
舟
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
107
「come together〜right nowダンダンデレレデーンデン over me、シュッ」「しゅっ、ぱーつ」。チャリにコースケを乗せて恵示は保育園に向かう。妻の美春と二人はコースケが生まれてR市に古いジュラシックなマンションを購入。多分ここでずっと暮らすと思っている。住む場所を決めるのは自由だ。でも住み始めたら容易には変えられない。家族、仕事、近くで事件があっても。でも少しの工夫で先への不安な心は変えられる。明日は明日になったら今日。坂道を漕ぎ、今日も住み続ける。淡々とだが日々へのエールがあった。2024/01/09
ままこ
80
コロナ禍を経た今を生きる姿がリアルだなぁ。築50年の大型マンションに住む若夫婦と幼稚園児の日常を細やかなタッチで描かれている。長く住んでる住民はああいうことが起こってもあんな達観した感じになるのかな。私には無理そう。日常を襲うトラブルに戸惑いながらも、折り合いをつけ地道に過ごそうとする姿に共感。雑学が好きだが「知り終え」の感覚もわかる。ラストのこの家族らしい締めかたもいいな。軽快で清々しい余韻が残る同時収録短編作品「舟」も良かっので、その後の長編も書いて欲しい。2024/01/15
なゆ
74
あ〜これ、私の好きな建物小説ぽい。郊外の巨大マンションに住む家族の日々の暮らし。冒頭、穏やかならぬことが起こるが、それすらも暮らしに飲み込まれていくような。夫婦でうまく分担して息子を自転車で保育園に送り迎えしながら、それそれの目に映るマンション内のあれやこれや。こんなささやかな日常の積み重ねが愛おしくなる。同録『舟』の甘酸っぱく切ないのもいい。水兵リーベ僕の舟、なんて覚え方したっけ?と思いながら忘れられなくなったよ、今更。クリティカルに台なしな返答の本多先輩のキャラ面白すぎて、ホントいいんですかい?2023/12/05
ゆみねこ
68
神奈川県R市の中古マンションで暮らす夫婦と保育園児の3人家族。飛び降り自殺から始まる不穏な出だしとは裏腹に子どもを持つ夫婦の日常を描き、淡々と進む物語。小編の「舟」の方が好み。水兵リーベ僕の舟、懐かしい!2024/06/13
シャコタンブルー
66
立花恵示と美春の夫婦それぞれの視点から各章が描かれている。主に日常の暮らしぶりと5歳になる息子の話で綴られる。マンションでの飛び降り自殺騒動から始まるが、それもサラリと流されて何事もなかったような平凡な日常が続く。朝食の目玉焼きと玉子焼きの選択、自転車での楽しい会話等3人家族の朗らかな生活がそこにある。息子を寝かしつけるシーン「寝ないと朝がこないよ」は笑えた。何も変わらない毎日や何気ない会話がいかに幸せな事であるかに気付かされる。2023/12/12