内容説明
幼子のみっちんは、火葬場の隠亡「岩殿」、“あいさつのよい”大男の孤児「ヒロム兄やん」、それにいつも懐に犬を入れた女乞食「犬の仔せっちゃん」など、人間の世界のかたすみで生きているような人々にみちびかれ、土地の霊たちと交わってゆく。しいたげられがちな人こそが「よか魂」をもち、魂のよい人間ならば、神さまと話すことができるのだという世の神秘が、あたたかみある熊本方言とともにつづられてゆく。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シュシュ
27
幼子みっちんと、みっちんの祖母でめくらさまである『おもかさま』、火葬場の隠亡の『岩殿』、片足の『仙造やん』、乞食さんの『ヒロム兄やん』『犬の仔せっちゃん』『ぽんぽんしゃら殿』の話。自然の描写がとても美しく、魂の世界のような見えないものを感じるファンタジーでもあった。社会の中で弱い立場の人を慈しむ気持ちが伝わってくる。 『犬の仔せっちゃん』に石を投げる男の子たちに立ち向かっていくみっちん。不条理な運命に対して、神様に怒るみっちんでもあった。みっちんは、苦海浄土の石牟礼さんなんだなと思った。2016/07/29
algon
17
著者「みっちんの声」の中で池澤夏樹は落ち込んでいたとはいえ「私の書くものは「あやとりの記」の1章、「苦界浄土」の2ページにも及ばない」とまで言った。・・で読んでみた。納得した。なるほど、特に最終章はファンタジー的に漂浪く(されく)魂を表現して白眉、池澤の述懐にうなづける出来と思った。子供向けの雑誌連載作だが「椿の海の記」の舞台設定そのままで面白く読んだ。5歳のみっちんと田舎社会からも外れ気味の人々との交流を描く。草叢に立つみっちんは不思議おもろい子。「苦界浄土」が壁になっていて埋もれていくには惜しい秀作。2022/02/01
勝浩1958
8
本の裏側に「小学校上級以上」と表示されていたのですが、このぎすぎすとした嫌な雰囲気が蔓延した日本社会で生活しているわれわれ大人が読んだほうが良いでしょう。読後感は、例えは変ですが、脂っこいものを食べた後にお漬物で口中をさっぱりさせた感じでしょうか。この著作は自然と人の共生が見事に描かれています。私が小学生の頃は、まだここに描かれているような自然やコミュニティが少しは残っていたように想います。いまはもう望むべくもないでしょう。淋しいかぎりです。2014/07/02
chanvesa
7
自然への畏敬の念や偏見のない世界観を背景としたこの本の世界に、経験したことがないのに懐かしい気持ちになる。なんだかかなしさすら覚える。出てくる人々はあんまり見てくれも良くないし、いじめや排除の対象になってしまうような弱い人たちなのに、神々しさすら感じる。それは文明の名の元に破壊され整理し尽くされた世界の人々であると思う。石牟礼さんが自分に読ませるために書いたとあとがきで書かれているが、だから純化された世界なのであろう。おとぎ話を聞くような感じ。2013/09/14
tyfk
6
洞(うろ) >>> 「なあヒロム兄(あん)やん、ここは何ちゅう山?」「ん? ああここは、鬼獄(おんたけ)さんの山ん中じゃあ、みっちんしゃん」「ここはそんなら、姫(ひめ)の桂(かつら)さまの洞(うろ)じゃなあ」p.3392023/11/23