内容説明
帝の住まう内裏のとなりに鬱蒼と広がる松の林。そこは「えんの松原」とよばれる怨霊たちのすみかでした。少年でありながら女童として宮中に仕える音羽は、東宮・憲平に祟る怨霊の正体を探るべく、深い闇のなかへと分け入っていきます。そこで彼が見たものは?……真実を求める2人の少年の絆と勇気、そして魂の再生の物語です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
がらくたどん
76
同じ怪異が襖一枚向こうにあった平安期が舞台でもデビュー作『鬼の橋』が少年の精神的成長を丁寧に描いた物語だとしたら本書は飛び切り生きのいい冒険譚。鬼橋の悩み多き篁少年に比べ本書の主人公はやんちゃな孤児音羽丸。しかも宮中のバリキャリ婆ちゃんに養ってもらうため女童の振りをしている(もちろんボロは出る)という大人でも「どうなる?」と食いつく設定。生まれた時から誰かに呪われているという諦念満載の東宮君と出会った事で、時に無鉄砲に時にビクつきながら怨霊が住む森に飛び交う怪鳥相手に「呪い」の正体を解き明かす冒険が始まる2023/05/08
りー
28
東宮憲平親王(後の冷泉帝)にとりついた怨霊をめぐる物語。児童書らしく少年が主人公ですが、これを少女に変えたら充分ラノベでもいけるのではないかと思います。脇役も婆キャラが特に良い。ただし、文章が整っていて遊びがない。能を一曲見終えたような気分です。昭和に出版されたのかと思うくらい重厚な装丁は、趣きはあるのですが読者は増えないだろうなぁと思うと残念。怨霊たちの描きかたも好みで、岡野さんの漫画版「陰陽師」の祐姫を思い出しました。この作家さんの別の本も読んでみたいです。いやー、良い作家をみつけました。2021/09/28
とんこ
23
訳あって女童のふりをして内裏で働く音羽は、怨霊に祟られているという東宮憲平と仲良くなるが…。鬼の橋が面白かったから読みましたがコチラの方が好き!主人公音羽の、少年らしい無鉄砲さや真っ直ぐさがいい。孤独だった音羽も助けてくれる人の優しさに気づき、自分も憲平を守ろうとする。広すぎる空に迷った時真っ直ぐそこに降りていける受け止めてくれる腕、自分を案じ、待っていてくれる人につながる光る糸、それを辿ればどんな暗闇からも抜け出せるのではないだろうか。2023/05/17
鮎
22
仔細あって女童の姿で宮中に紛れ暮らす少年音羽丸と、怨霊に取り憑かれた孤独な東宮憲平。神鏡の眠る部屋で出会った二人は、やがて怨霊の巣食う〈えんの松原〉へと導かれていく。憲平に祟る怨霊の正体が知れたとき、恐れは深い哀しみに変わる。そして人の業が招く闇の深さを思う。結末は予想できるものだったけれど、音羽がそこに至るまでには伴内侍のわかりにくい愛情と、亡き両親との温かな記憶、離れた叔母との絆があったことを忘れたくない。それは憲平にとっての監でもある。夏君や綾若などの脇役も楽しく、読後さわやかな良作。再読する!2017/09/11
Yuko
20
<栄華を極める花の都のまん中に、怨霊たちのすみかがあった。何者かに祟られた若き皇子・憲平と女装の少年・音羽は真実を求めて世の闇、人の心の闇へと深く分け入ってゆく。絶望をこえる勇気、結び合う絆の力、魂の再生の物語。> 2001年 「鬼の橋」に続いて著者2冊目。えんの松原がない世界は果たしてよい世界なのか?切り倒し、更地にし、見えないようにしてしまうのが良いことなのか?児童文学のジャンルを突き抜けて大人も、いや、大人だからこそ、より味わい深い。 2020/08/21