内容説明
これはきっと「あなたの物語」
住み心地のいい離れの一軒家で一人暮らしを続ける北川春子39歳。母屋に越してきた、夫を亡くしたばかりの63歳、青木ゆかり。裏手の家に暮らす、今どきの新婚25歳、遠藤沙希。偶然の出会いから微妙な距離感のご近所付き合いが始まった。「分かりあえなさ」を越えて得られる豊かな関係を描き出した珠玉の一作。
「わたし以外のほかの誰かが決めることじゃないんです」
人と比べられて気まずい思いを強いられたり、「みんな」と同じ条件や要素を手に入れられないことに疎外感を持ったりする世の中にあって、その言葉はすべての「わたし」の人生を支えてくれるお守りのようなものだろう。いうなればこの小説は、ひとりの人間が自分の内側からその言葉を紡ぎ出していく過程を丹念に言語化したものなのだ。(倉本さおり(書評家)「解説」より)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
イシカミハサミ
13
最近よくあるといえばよくある、 多様性と「普通」の対立、というか共存。 これがさすがの柴崎さんの文体で綴られる。 黄色い家。 ファストファッション。 1人暮らし。 車。 生活の中の個性から、 さまざまなものを暗示させる。 暗示させられているものを、 暗示していると認識してしまうこと自体が、 世の中の「普通」に毒されている証拠かもしれない。2024/02/29
miu
11
わたしはつくづく市井の人のなんてことない日常をうまく描く作家が好きだ。柴崎友香もその一人で今作「待ち遠しい」ももちろん最高だった。一人で賃貸の離れに住む春子と大家で母屋に住むゆかり。ゆかりの甥の嫁沙希。ご近所付き合いは面倒くさくもありがたいもの。そして次から次へと気付きを得るもの。あしたからちょっと目に映るものが変わるかも。ご近所付き合いはしないと思うが、人ともう少し関わることもいいのでは、と思えた。2023/03/05
まなみ
10
ご近所付き合いからの人間関係のお話。とても近くて心地よい関係というよくある話とは違い、ほどよい緊張感のある関係性がこれまで読んだ小説とは違っていて良かった。お互いに話をしてきつく聞こえるシーンは少なくないのだけど、春子が自分の思うことについて話をしたり、相手の話に共感や否定をするでもない感じが私には素敵に見えた。「待ち遠しい」これは人生のテーマかもしれない。2023/08/14
ヨシ
10
離れの一軒家を借りてシングル生活を楽しむ春子39歳。母屋に越してきた、亡夫を忘れられない63歳ゆかり。ゆかりの甥の妻で裏手の家に住む沙希25歳。価値観が全く違う三人がご近所になったことで知り合い、自分を見つめ直し、自分の生き方に気付くまでのお話。「わたし以外のほかの誰かが決めることじゃないんです」という言葉が心に残る反面、全てを忘れるほど沙希がイヤすぎた。こんなに嫌いな登場人物は初めてかもしれない。2023/06/04
9分9厘
5
年齢も立場も育った環境も違う三人三様の女性。彼女たちはそれぞれ一つの敷地に建つ母屋と二軒の借家に住んでいる。わかりあえないもどかしさと苛立ち。私は立場の近い春子の目線が1番しっくりくるけど、読者の現在の「状態」によっていろいろ考えてしまうことも違いそうだ。事件が起きないので「解決」というスッキリ感はないけど、それが日常って奴なんだろうなあ。2023/05/09