内容説明
古い館は、死んだ動物たちであふれていた──。それらに夜ごと「A」の刺繍をほどこす伯母は、ロマノフ王朝の最後の生き残りなのか? 若い「私」が青い瞳の貴婦人と洋館で過ごしたひと夏を描く、とびきりクールな長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
まさ
26
"アナスタシア"伯母さんと周囲の人たちの日々。読みながら心がざわつくのは、誰しもが持つ歪さが如実に現れているから。それでも受け容れられているのは、小川洋子さんの世界であり、自分たちの日々でもそうだろうと気づく。何も語らない剥製たちは死と生の狭間を表しているよう。死・終焉に直面してまた存在感を示している。2024/02/03
いっちゃん
16
ロマノフ王朝の生き残りと証明されようものなら、下手したら殺されちゃうものね。わりと気持ち悪めな設定なのに、ユリ伯母さんのキャラクターで滑稽な味わいがあります。ニコの強迫性障害の行動を読むと、この病気の方は大変だなぁと思わされました。2024/03/07
まり
15
図書館本。不思議な話、それでいて何故か圧倒的な強さで引き込まれる…そんな話だった。叔母さんの佇まいが何とも言えない味がある。そして沢山の剥製、さらにその剥製に刺繍をするって…しかも自分の本当の名前のイニシャル。改めて考えると、かなり突拍子もないけど…読んでいる時は、しっくりくる。そしてだんだん楽しくなる。…やっぱり不思議な話。2023/11/15
遙
15
洋館、剥製、刺繍、死 小川洋子さんのテリトリーなのは間違いない。剥製が入り乱れている館、猛獣館の主の伯母は、日々剥製に、[A]のイニシャルを刺繍している。それは本当の名のイニシャル、[アナスタシア]であると伯母は言う。伯母は本当に、ロマノフ王朝の最後の生き残りなのか? [死]というものを恐れる必要はない、自然に受け入れるもの。 病を個性に変える程の小川さんの作品の登場人物達は決して悲壮感はなく、彼、彼女達にしか見えないものがあり、それがとても魅力的に映ります。今作もとても好きでした。2023/09/14
coldsurgeon
6
亡命露西亜人らしき義理の叔母と姪とその恋人とが、剝製で溢れる洋館で過ごした日々が語られる。叔母はロマノフ王朝最後の皇女かもしれない設定に興味が引かれてしまうが、作者の淡々としたクールな文章は、熱気を冷まさせる。「蘇生」とは何かが最後まで明示されないが、生と死の対比は、動き回る人間たちと洋館に詰め込まれた動物の剥製を示し、永遠の静止により、いかに生きている時以上の生命力を生み出すかが、埋め込まれていた。喪失の傍に暮らす人間たちを描くことにより、その対比である蘇生が描かれていたのではないか。2023/11/20