内容説明
古い館は、死んだ動物たちであふれていた──。それらに夜ごと「A」の刺繍をほどこす伯母は、ロマノフ王朝の最後の生き残りなのか? 若い「私」が青い瞳の貴婦人と洋館で過ごしたひと夏を描く、とびきりクールな長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
133
『目の前にいる老女は、ロマノフ家最後の生き残り、アナスタシアではないだろうか』。主人公の『私』がひと夏を一緒に暮らした伯母との生活が描かれていくこの作品。そこには、伯父が残した数多の『動物製品』に囲まれる不思議感漂う物語が描かれていました。『ロマノフ王朝』の最期に隠された噂に興味が募るこの作品。モノにこだわる小川洋子さんの真骨頂とも言える描写に満ち溢れたこの作品。謎を抱える伯母の存在を雰囲気感抜群に描いていくその上手さ、新装刊の表紙際立つ中、小川さんの鮮やかな筆致に魅せられっぱなしの素晴らしい作品でした。2024/10/18
クリママ
50
裕福な伯父と高齢での結婚後10年で死に別れ、伯父が収集していた大小の動物のはく製が所狭しと置かれた屋敷で私と暮らすことになった78歳のロシア女性。彼女は、自分の持ち物だけでなく、はく製にさえイニシャルの”A”を刺繍する。はく製を商売とする胡散臭い男が現れたことによって、彼女の素性が明かされようとする。誰にも好感が持てなかったが、次第に私や私のボーイフレンドの優しさがにじみ、男の真摯さもわかってくる。彼女はアナスタシアなのか。その疑問以上に、現実を越えた世界が不穏であり優雅だ。2024/11/23
Gotoran
42
古い館は、死んだ動物たちで溢れていた――。それらに夜ごと「A」の刺繡を施す伯母は、ロマノフ王朝の最後の生き残りなのか。若い私(主人公)が青い瞳の貴婦人と洋館で過ごしたひと夏を描く。伯母様と主人公、主人公の恋人、3人の優しさや弱さ、苦しみ、切なさを窺い知ることができる。 かつては美しく気高い洋館は朽ち果て、剝製だらけの世界で繰り広げられた、叔母様の嘘。とびきりクールな小川洋子初期作品を読んでみた。2025/07/26
まさ
28
"アナスタシア"伯母さんと周囲の人たちの日々。読みながら心がざわつくのは、誰しもが持つ歪さが如実に現れているから。それでも受け容れられているのは、小川洋子さんの世界であり、自分たちの日々でもそうだろうと気づく。何も語らない剥製たちは死と生の狭間を表しているよう。死・終焉に直面してまた存在感を示している。2024/02/03
あんこ
22
再読。適切な生き場所、適切な死に方。小川さんはいつだってその人にとって一番しっくりくる場所に目を向けてくれる。あまりに優しげな語り方と思い出の色鮮やかさに思わず泣きたくなる。一人一人はきっと歪かもしれない存在でも、その凸凹を無下に扱うことなく掬いあげてくれる。そしてこの人たちはもういない人たちなのだと分かっているのに、定期的に読み返しては何度でも惹かれ、最初は胡散臭く思えてしまう登場人物のことも、何度でも愛しく思えてしまう。小川さんの作品に満ちた慈愛によって、読者である私もまた生かされているように思う。2024/06/30




