内容説明
ことばが世界をつくるのか。世界がことばをつくるのか。
元オリンピアンで著作も多く、「走る哲学者」とも呼ばれる為末大氏。
為末氏が現役時代から興味をもっていたというこの問いを、言語習得研究の第一人者である今井むつみ氏が受け止める。
私たちが意識せず使いこなしている「ことば」とは何だろうか。
「言語能力が高い」、「運動神経がいい」とはどういう状態を指すのだろうか。
スポーツでも言語の習得でも、繰り返しながらやさしいことから難しいことへ、段階をふんだ「学び」が必要になる。しかし、「学び」とは単なる知識の獲得ではなく、新しい知識を生み出す「発見と創造」こそが本質であると今井氏は言う。その究極のかたちを為末氏は、調整力の高さ、すなわち「熟達」と呼ぶ。
私たちはどのように学ぶのか、そこに身体がどのようにかかわってくるのか。
「ことばと身体」を専門にする話題のふたりが、異なる立場から「学び」にアプローチする。
◆目次案
1章 ことばは世界をカテゴライズする
2章 ことばと身体
3章 言語能力が高いとは何か
4章 熟達とは
5章 学びの過程は直線ではない
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
tamami
66
著者のお一人、今井むつみさんの『言語の本質』で「記号接地問題」を知り、さらに深めたいと思っていたところ本書に出会う。アスリートの為末さんとの対談は、期待に違うことなく、実に興味深い内容の連続である。為末さんの、運動を効果的にさせるためには、受け手に合わせてことばを変えることが必要であるということや、今井さんの、子どもがことばの世界を広げていくためには、直接の知覚経験、ことばが身体につながっているということが大切、等々、ことばと身体との関わりについて、その本質に関わる事柄が、対話という形で産み出されていく。2023/09/10
けんとまん1007
62
以前からなるほどと思っていたお二人。言葉と身体。人が持つ二つの特性。これが、どのように結びつくのか、どのように変化することで成熟していくのか、納得しながら読んだ。身体性を前から重要視しているので、それを裏付けられたと思う。それと、本当の意味でのコミュニケーションも頷ける。場を考え、相手を考えることから始まる。そして、less is more というフレーズが、どんぴしゃり。2024/05/23
ムーミン
38
後半、これからの教育を考えるヒントが豊富にありました。ICAPモデルはとても良い参考にできそうです。2023/11/10
Tenouji
31
言葉の限定効果と抽象化が、身体の全体性と揺らぎを絶妙にコントロールする、というのが人間の学びであるという風に理解したw。2023/10/29
ta_chanko
29
身体の使い方を伝える際、言葉が重要な役割を果たす。例えば「熱い鉄板の上を走るつもりで」と言えば「接地時間を短く」と言うよりも具体的にイメージ・実践しやすい。ハードルを跳ぶときは「襖を破る」つもりで。また何らかの動きを表現する言葉が存在することで、具体的・意識的に再現することが可能になる。「できるようになる」とは、無意識にできるようになり、さらにそれを意識化できること。熟達者ほど緊張と弛緩差が大きい。「学ぶ」とは、子どもが母国語を習得していくように、文脈・スキーマを理解し自ら「学び方」を学んでいくこと。2023/12/14