内容説明
1930年代末、恐慌の嵐が吹き荒れるアメリカ。南部の町のカフェに聾唖の男シンガーが現れた。店に集う人々の痛切な告白を男は静かに聞き続ける。貧しい家庭の少女ミック。少女に想いを寄せる店主。流れ者の労働者。同胞の地位向上に燃える黒人医師――。だがシンガーの身に悲劇が起きると、報われない思いを抱えた人々はまた孤独へと帰っていくのだった。著者23歳の鮮烈なデビュー作を新訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Willie the Wildcat
69
根底に抱える多様な苦悩と、それらの苦悩が齎す物心両面での「孤独」が共通項。ヒトの繋がりの物理的喪失、シンガーを求めざるをえない心理的な不安定性。終盤にシンガーが吐露する”真実”が示唆する「心の一方通行」。しかし、その一方通行に、救いがあったのももう1つの真実。後者が欠けた故のシンガーの最後という感。一方、読後に気にかかる3点。まずシンガー南部移住の理由、次にクララ未亡人のジェイクへの影響、そして最後に「可愛いから撃つ」ババーの心理。因みに、村上春樹氏”最後”の取り置き作品と知り、本著を手にしました。2024/03/21
佐島楓
58
『結婚式のメンバー』も既読。村上春樹訳だったので読んだ。剥がれ落ちていくように不幸になっていくひとびとが苦しくて悲しくて、読み進めるのがつらかった。人種や身体的な差別は現代でも決してなくならないし、それが前提とされてしまうのもやはり悲しい。メンタル落ち気味のときに読んだのがまずかったか。村上春樹の色は翻訳にあまり出ておらず、彼にとって大切な作品だったことがうかがえる。わたしがアメリカ文学をわずかでも知っているのは春樹さんのおかげなので、その点にはやっぱり感謝したい。2023/10/24
優希
54
人々の痛切な想いに痛みが走りました。静かに人々の告白を聞く聾唖のシンガー。ただ、シンガーに何かが起こると同時に、人々はまた孤独へと迷い込むのが辛いところです。それでも戻った孤独に引き込まれていきました。どんなに切なくてもそこに何かがあるようだからでしょう。静かに流れる孤独の協奏曲に浸る時間は辛さこそあれど、何故か酔いしいれるように浸ってしまいます。23歳の少女が描いたとは思えない孤独の美しさに魅せられたのでしょうね。2023/10/19
ぐうぐう
42
『結婚式のメンバー』に心打たれた読者にとって本作は、より特別な小説となるだろう(訳者である村上春樹曰く「最後まで金庫に大事にしまっておいた」本作は、春樹にとっても特別な作品である)。個々に悩みを抱える人種も性別も世代も違う四人が、一人の聾唖の男によって救われていく。けれどその四人は、自らの勝手なイメージを聾唖の男に当てはめ、聾唖の男自身もまた悩みを抱えている発想に、なかなか思い当たることができない。春樹が訳者あとがきに書くように、本作はとても閉じられている。(つづく)2023/12/22
syota
39
[G1000]第2次大戦直前のアメリカ深南部、あからさまな人種差別が横行し、長びく不況に喘ぐ地方都市が舞台。物静かな聾唖の男を夜ごと訪れるのは、流れ者のアナーキストや同胞の生活向上に奔走する黒人医師、子供から大人へ成長しようとする貧しい白人少女などだ。やり場のない不満や怒り、孤独感を抱える彼らにとって、唯一心の内を吐露できる相手が聾唖の男だった。何をしても状況は変わらないという無力感と閉塞感、その中でのわずかな希望。「傾聴」を必要とするのは老人だけではない。現代にも通じる普遍性を有する、味わい深い一冊だ。2023/12/25
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