内容説明
心にもない「死刑判決文」を書かされた熊本は懊悩(おうのう)し、裁判官を辞め、やがて行方不明となる。事件から40年以上が経ち、突然マスコミの前に現れて「あの裁判は間違っていた」と語り出す。償いなのか、売名行為なのか? 大幅加筆で[完全版]として緊急出版!!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
fwhd8325
58
袴田事件をはじめとして、たくさんの〈冤罪〉と言われている事件があります。何故、冤罪が起きるのでしょうか。出自や思想によって、犯人であるシナリオが作られているのでしょうか。人の人生、命をこんな扱いをして許されるとは思いません。この著書は袴田事件を軸に、当時裁判官のひとりだった熊本判事の人生を辿っています。彼もまた犠牲者のひとりなのでしょう。とっても苦しく、重い読書になりました。2024/01/03
nonpono
54
エリート裁判官から袴田事件の死刑判決を書いた自分に囚われ酒の海に溺れていく熊本元裁判官。そして袴田さんは無罪だという有名な告白が。著者に熊本さんが「美談にしないで」という言葉がじわじわと侵食する。だけど、長い人生が美談で終わるわけがない。だんだん崩れる熊本さんの話。だけどずっと面倒を見た内妻の島内さんや「晩節を汚さないでほしい」とかばい酒を教えた自分が悪いと言う、ワダキューという本当の友達の話を読むとわたしは逆に熊本さんの持つ、何かほっとけない魅力を感じていた。そして死に場所を探し続けた男の最期が泣けた。2025/04/21
香菜子(かなこ・Kanako)
28
袴田事件を裁いた男――無罪を確信しながら死刑判決文を書いた元エリート裁判官・熊本典道の転落。尾形 誠規先生の著書。無罪を確信しながら死刑判決文を書いた裁判官だなんて許されない。無実の人をみすみす死刑にするなんて殺人とどう違うの?と思ってしまう。熊本典道元裁判官は良心の呵責と反省心で正直に話したけれど間違えた判決をしても良心の呵責も感じずにのうのうと良い生活をしている裁判官や元裁判官がいるとすれば最低最悪劣悪人間。厳しく糾弾されて批判されて処分されないと冤罪で苦しんだ人が報われません。2023/12/28
gtn
21
無罪を確信しながら死刑判決文を書き、苦しみ抜いた元裁判官。その間、非のない男が脳裏から離れず、酒に逃げ、家庭崩壊し、心身ともにボロボロになった末、真実を公表したことは評価する。だが、逃げ場もなく、いつ処刑されるかもしれない状況下に57年間も晒され、妄想以外に現実から逃れることができなかった袴田巌さんの苦しみに及ぶ訳がない。2023/11/29
遊々亭おさる
19
1966年、静岡県のみそ製造会社の専務一家4人が殺害された事件は元ボクサーである同社社員の犯行として起訴され裁判が始まる。一審の主任裁判官であった熊本典道は被告を無罪と確信するが、合議による多数決に敗れ死刑判決を下す。袴田事件に関わったエリート裁判官の転落の人生と優秀であるはずの法曹関係者が冤罪を生み出すメカニズムの解説。罪悪感に押し潰されても見栄とプライドを捨てきれない人間臭さは彼をヒーローに祭り上げていない分その心情が理解出来る。完璧な人間などいない。予断はエリートさえも盲目にする。色眼鏡は捨てよう。2023/11/30