内容説明
ロシア人を父に持ち,若くしてロシア,ヨーロッパを彷徨いトルストイの謦咳に接した.革命から逃れて日本に帰国,その後,東京の下層社会で極貧生活を送りながら旺盛な執筆活動を始める.才能を妬まれ虚言の作家と貶められ,文壇から追放された大正期のコスモポリタン作家が,生まれからデビューまで,数奇な人生を綴る.
目次
挨拶
少年時代
青年時代
労働者時代
文士開業時代
自画自讃
解説(四方田犬彦)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
51
『黄夫人の手』で初めて知った異色の大正作家、大泉黒石。ロシア人外交官の父とロシア文学大好きな日本人の母との子であった彼の人生はまさに波瀾万丈だが、「国際的の居候」と自らを標榜する彼の口調は明朗でユーモラス。しかし、お母さんが16歳で産褥死しているという記述に恐れ慄く。父亡き後はロシアの親戚に引き取られるも気取り屋のオペラ歌手の伯母とは折り合いは悪く、もう一人の伯母には頭が上がらない。トルストイはご近所さん、舎監はドーデと文学好きなら目を引ん剝く学生時代だが、ロシア語はできなかったらしい。2026/04/12
ワッピー
28
かつて短篇集を読んで気になっていた作家さん。ロシア外交官と日本人女性の間に生まれ、父親を追って中国に渡るも、父の死とともにロシアで育てられ、二月革命の戦禍を避けて日本に帰国し、学校を退校し様々な職に就き、文筆活動に携わり始めるあたりまでを網羅。威勢よく、青臭く、そして素直に感情を吐露していて、人間というモノの面白さ、儚さが伝わってきます。もう一度作品を読み直してみなければ…。トルストイやドーデとニアミスしたロシア時代、東京に出て半ば騙されて皮革加工業に携わったこと、実に怪しげな文学業界と編集者たちなど、⇒2024/06/28
hasegawa noboru
23
ロシア領事を父に持った混血作家がその半生を綴った自伝小説。四方田犬彦氏の巻末解説によればによれば、このデビュー作によって黒石はベストセラー作家になり、<毀誉褒貶の嵐のなか>大正末の<五年間は、黒石の全盛時代><文壇の寵児となった>とある。文学史的にはその後抹殺されたのではないか、寡聞にしてその存在を知らなかった。1917年<革命の巷>と化したペトログラードを15歳年上の恋人、ユダヤ女性を連れて逃げ回り、その女性は頭に銃丸を貫かれ死んでしまう。<このあたり、どこまでが黒石の実体験であるのか。多分にメロドラマ2023/06/13
春ドーナツ
17
齢を重ねるうちに、ちょぼちょぼと読んでいた戦前の日本文学も多少なりとも嵩を持つに至った。そうすっと、ある種の「文学観」が萌芽するのも自然な成り行きである。浅学な私にとって大泉の文章は、まさに黒船襲来であった。田山花袋風に述べれば、布団が吹っ飛んだ。時代を軽く跳躍して、22世紀の作品と嘯かれても首肯したことだろう。「解説」で、岩波文庫ではこれからも黒石作品を復刻します宣言があったならば、欣喜雀躍したことだろう。本書が世相に合致して、ベストセラーになれば、文庫編集部も柳の下の泥鰌を狙うだろう。お願い、狙って。2023/05/29
nishiyan
16
大正時代にベストセラー作家となるも文壇を追放された大泉黒石のデビュー作。昭和の怪優・大泉滉の父といった方が通りが良いかもしれない。1919年に『中央公論』に発表された作品だから、古くて読みづらいかと思いきや、講談のごとき軽い語りで読みやすかった。生い立ちに始まり、妻帯してからの苦労話など、虚実の境がどこにあるのかわからない面白さ。特に少年時代は叔母の援助を受けながら、パリでペトログラードでとうだうだと暮らしながら巻き込まれたロシア革命。彼の死生観に大きな影響を与えたのだろうなと。他の作品もぜひ読みたい。2023/09/05




