内容説明
22歳女子、実家のバスタブで暮らし始める。
「人間は、テンションが高すぎる」ーー
磯原めだかは、人とはちょっと違う感性を持つ女の子。
ちいさく生まれてちいさく育ち、欲望らしい欲望もほとんどない。物欲がない、食欲がない、恋愛に興味がない、将来は何者にもなりたくない。できれば二十歳で死にたい……。
オナラばかりする父、二度のがんを克服した母、いたずら好きでクリエイティブな兄、ゆかいな家族に支えられて、それなりに楽しく暮らしてきたけれど、就職のために実家を離れると、事件は起こった。上司のパワハラに耐えかね、心を病み、たった一ヶ月で実家にとんぼ返りしてしまったのだ。
逃げ込むように、こころ落ち着くバスタブのなかで暮らし始めることに。マットレスを敷き、ぬいぐるみを梱包材みたいに詰め、パソコンや小型冷蔵庫、電気ケトルを持ち込み……。さらには防音設備や冷暖房が完備され、バスルームが快適空間へと変貌を遂げていく。
けれど、磯原家もずっとそのままというわけにはいかなくて……。
「このライトノベルがすごい!2023」総合新作部門 第1位『わたしはあなたの涙になりたい』の【四季大雅×柳すえ】のコンビで贈る、笑って泣ける、新しい家族の物語。
※「ガ報」付き!
※この作品は底本と同じクオリティのカラーイラスト、モノクロの挿絵イラストが収録されています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
芳樹
68
就職したもののすぐに挫折して自宅にもどり、バスタブで暮らし始めた「めだか」の物語。精神を病んだめだかが見る世界は、彼女がいかに追い込まれているかを示すものであり、読んでいて身震いするような凄味がありましたね。また、そんな彼女が実に個性的な両親と兄や友人たちとの交流を通じ、自己を確立するに至る流れに感激致しました。作品の根底に「家族の絆」が流れているのがまた良い。本作はライトノベルの皮を纏った純文学と言うべき作品で、総じてガガガ文庫というレーベルがいかに挑戦的であるかを改めて認識させられました。これは傑作。2023/09/14
日坂愛衣
51
前作と違って感動も感涙もなく、ただ”凄い”と”成長”を感じる一作、そしてやはりこれは生きつらい人に対しての救えになることを信じる。やはりこれをラノベとして出るガガガ文庫が偉いと思う2023/08/18
星野流人
49
めちゃくちゃ泣きました。これはものすごい響きました。就職に失敗した磯原めだかが、自宅にとんぼ返りして、狭いバスタブの中での生活を始める。現代日本が舞台なのだけれど、作品全体がどこか幻想的なものに包まれていて、読感は不思議な感じです。登場人物たちが能面を被っていたり、体内に漬物石がワープしてきたりと、描写は幻想的である一方で、生きづらさを抱えていためだかの心情だったりとかは、ものすごくリアルに胸を突いてきます。バスタブ暮らしが長くなるにつれ、兄によってどんどん快適に改造されていくのがおもしろかったですね。2023/09/03
よっち
46
人とは少し違う感性を持った女の子・磯原めだか。就職のために実家を離れたものの、上司のパワハラに耐えかねて心を病み、実家にとんぼ返りしてバスタブで暮らし始める物語。おおらかな父や二度のがんを克服した母、兄や幼馴染たちに囲まれて育ち、逃げ戻ってからは兄の協力も得て着々と構築してゆく快適なバスタブ生活。そこから巡り巡ってVTuberデビューや、なかなか深い思索をする日々が待っているとは思いませんでしたが、磯原家の状況が変わってゆく中で家族たちの想いや覚悟を受け止めためだかの成長と決意を応援したくなる物語でした。2023/08/18
オセロ
45
現代社会において生き辛さを感じている人は必ずいて。今作の主人公である磯貝めだかはそれを極端に表現したキャラクターなのかなと。生まれつきコンプレックスを抱えていてコロナの影響でコミュニケーション能力不足。それをめだかの感性で顔の倫理(あとがき参照)で判別させているのが皮肉が効いているというか何というか難しいところですが、そんなままならない状況の中で現実と向き合うにはどれほどの勇気とエネルギーがいるのだろうかなど、いろいろ考えさせられましたね。2023/08/18