内容説明
なぜ、小説を書くのか?
書き続けるために本当に大切なこととは?
そもそも、小説とは何なのか、何ができるのか――?
常に現代文学の最前線を疾走し続けた作家が、これからの創作者に向けて伝える窮極のエッセンス。
単著未収録のロングトークを中心に、文体論、作家の個性、絵画・美術といった他ジャンルとの比較など、長年にわたり発表してきた小説論を初めて精選。
さらに巻末には、著者最晩年(2005)における保坂和志氏との伝説的対談「小説の自由」を収録。
本書を読み終えた時、あなたの小説観は確実に何かが変わっている――。
(文庫オリジナル/解説=保坂和志)
【目次】
Ⅰ 小説の文体(一つのセンテンスと次のセンテンス/『考え方』の藤森良蔵/わが精神の姿勢)
Ⅱ 小説の新しさ(肉体と精神/日本文学とユーモア/私の小説作法/モデルとプライバシイ/抽象主義の作家たち/共通の心の場とは何か/摩擦音の如きグロテスク/私の考える「新しさ」ということ)
Ⅲ 小説の論理(思想と表現/愚劣さについて)
Ⅳ 小説と絵画(ゴッホの絵について/エドガー・ドガ/喜怒なきマスクの如く)
Ⅴ 小説と芝居(小説と戯曲の間/小説と演劇/初めて戯曲を書いて)
Ⅵ 小説と書簡(小説とは何か)
Ⅶ トークより(私の小説・評論・芝居(1972)/我々と文学(1972)/カフカをめぐって(1983)/いかに宇野浩二が語ったかを私が語る(1985)/男の領域と女の領域のせめぎあい(1985)/そして小説は生き延びる(2000)/対談・小説の自由(2005))
解説 保坂和志
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Bartleby
16
ときどき笑えた。話はあちこちに飛び、講演ではやる気がない。が、合間にふとすごい言葉が口をついて出る。カフカ論がとても良かった。ともあれ、読者が読まないようにするために分厚い小説を書いた、というのはすごい話だ。要は自分が小説について考えたいがために小説家をしていたのだとわかる。彼の小説には一時期ハマったが、死ぬほど退屈な部分と死ぬほど面白い部分が混在している。本書を読んで思った以上に「わざと」やっていることがわかった。カフカもそうだがあまり深入りするとエンタメ小説が読めなくなる。し、実際そうなってしまった。2023/06/02
フリウリ
7
小説論、創作論を中公文庫が独自に編集したもので、1950年代~2000年代の文章が収載されています。自分を題材に書くには、自分を背中から見ること、自分が一番大事だと思っていることを切り離すこと(それは「身を切るようなことだ」)が必要、と言っています。また、ユーモアさえあれば読者と最低限のつながりがもてるので、大抵のマイナスは帳消しになるし、「破綻した物語のはぐらかされるような流れも一貫性が感じられるようになる」と、小島の小説と照らし合わせると少々「きわどい」発言もあります。やはり晩年がおもしろいです。82023/09/11
午後
4
後半のトーク、特に「カフカをめぐって」が素晴らしい。思わず、やめていた日記をまた書き始めた。2023/06/16
まどの一哉
3
小島信夫はなんとも不思議な作家で、いかにもこういうことを書いたというわかりやすいイメージを得られない。本書の融通無碍な行方知らずの文体もなにやら細い脇道を彷徨うようでどこへ連れて行かれるのやらわからない。だがその謎は小説の面白さを解き明かしていく過程でしだいに明らかにされる。2024/06/28
袖崎いたる
1
小島信夫と保坂和志は良いな。とても良いものを感じる。これはタイトルが小説作法だから、小説書きたい人が手にとることが念じられているように思うんだけど、その小説書きたい人の小説を書きたいなという思いの焚きつけの点からすると、これは自己啓発本とは違う。自己啓発本というのは読むとヤル気が出ることで知られているが、ああいうのではなくて、とてもおもしろい小説や詩に触れて焚きつけられる類いのヤル気があるが、この本で焚きつけられるのはソッチなのだ。保坂の著書のタイトルを引くと、上質な小説の書きあぐねへと読者を誘うのである2025/06/11