神の亡霊 近代という物語

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神の亡霊 近代という物語

  • 著者名:小坂井敏晶【著】
  • 価格 ¥3,080(本体¥2,800)
  • 東京大学出版会(2023/07発売)
  • 2025→2026年!Kinoppy電子書籍・電子洋書全点ポイント30倍キャンペーン(~1/1)
  • ポイント 840pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784130131513

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内容説明

責任ある主体として語りふるまう我々の近代は、なぜ殺したはずの神の輪郭をいつまでも経巡るか。臓器の所有、性のタブー、死まで縦横に論じ反響を呼んだ小会PR誌『UP』連載に、著者の思考の軌跡をふんだんに注として加筆した渾身の論考。すべてが混沌とする現代の問題に、自分で思考することを試みる。


【本書「はじめに」より】
神は死んだ。世界は人間自身が作っていると私たちは知り、世界は無根拠だと気づいてしまった。もはや、どこまで掘り下げても制度や秩序の正当化はできない。底なし沼だ。幾何学を考えるとよい。出発点をなす公理の正しさは証明できない。公理は信じられる他ない。どこかで思考を停止させ、有無を言わせぬ絶対零度の地平を近代以前には神が保証していた。だが、神はもういない。

進歩したとか新しいという意味で近代という表現は理解されやすい。だが、近代は古代や中世より進んだ時代でなく、ある特殊な思考枠である。科学という言葉も同様だ。科学的に証明されたと述べる時、迷信ではなく、真理だと了解する。しかし科学とは、ある特殊な知識体系であり、宗教や迷信あるいはイデオロギーと同じように社会的に生み出され、固有の機能を持つ認識枠である。科学的真理とは、科学のアプローチにとっての真理を意味するにすぎない。

人間はブラック・ボックスを次々とこじ開け、中に入る。だが、マトリョーシカ人形のように内部には他のブラック・ボックスがまた潜んでいる。「分割できないもの」を意味するギリシア語アトモスに由来する原子も今や最小の粒子でなくなった。より小さな単位に分解され、新しい素粒子が発見され続ける。いつか究極の単位に行き着くかどうかさえ不明だ。

内部探索を続けても最終原因には行き着けない。そこで人間が考え出したのは、最後の扉を開けた時、内部ではなく、外部につながっているという逆転の位相幾何学だった。この代表が神である。手を延ばしても届かない究極の原因と根拠がそこにある。正しさを証明する必要もなければ、疑うことさえ許されない外部が世界の把握を保証するというレトリックである。そして、神の死によって成立した近代でも、社会秩序を根拠づける外部は生み出され続ける。

このテーゼが本書の通奏低音をなす。虚構なき世界に人間は生きられない。自由・平等・人権・正義・普遍・合理性・真理……、近代を象徴するキーワードの背後に神の亡霊が漂う。表玄関に陣取る近代が経糸を紡ぐ。その間を神の亡霊が行きつ戻りつ、緯糸のモチーフを描く。


【主要目次】
はじめに
序 近代という社会装置
第1回 死の現象学
第2回 臓器移植と社会契約論
第3回 パンドラの箱を開けた近代
第4回 普遍的価値と相対主義
第5回 「べき論」の正体
第6回 近代の原罪
第7回 悟りの位相幾何学
第8回 開かれた社会の条件
第9回 堕胎に反対する本当の理由
第10回 自由・平等・友愛
第11回 主体と内部神話
最終回 真理という虚構
あとがき

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

syaori

66
「共同体の外部に投影されるブラック・ボックスを援用せずに、社会秩序は根拠づけられない」と作者は言う。社会規範は時代や社会により変る恣意的なもので根拠を立ててもその根拠の根拠は…と無限遡及してしまう。どこかで思考停止する(システムを閉じる)必要があり、それを前近代では神が担っていたと。本書は、神なき近代でも主体、自由意志など個人に内在化する形で生み出される外部(責任の根拠)や、そのアポリアを見てゆきます。近代という「思考枠」や人間の意識を離れて現れる「社会装置」についてなど示唆に富み視野が広がるようでした。2025/09/10

まこみや

52
中世の神に代わって近代は「個人」(自由意志を持つ主体)を発見したと言われる。しかしそれは、事後的に根拠を正当化するために、外部の神の擬態として内部に捏造された虚構に過ぎなかった。虚構性が隠蔽される点で中世も近代も変わらない。いや、むしろ根拠や責任を内因としての人間自身に課すだけに、より苛酷な世界になったのである。/知識が増える快感を与える本は多い。しかし自分の足元が揺らぐような、知の箍が外れる体験を与える本は滅多にない。個人的には、文句なくここ数年で読んだ本のうちベスト1だ。2023/11/28

小鈴

31
「神がいると真面目な顔で言われると、こいつ、頭大丈夫かと思う」で始まるこの本は、今や当たり前すぎて疑いもしない概念「主体」「自由意志」「自由、平等、友愛」など近代の原理を「虚構」であることを暴く。読み終えて改めて最初の文章の「神」の言葉と入れ替え可能なことを知るだろう。神を追放して近代の扉を開けたが、我々は神の亡霊を消すことはできない。「集団の価値観を離れて合理性は判断できない。集団性こそが根拠の源泉であり、真理の定義である」(385)『社会心理学講義』とセットで読むと理解が深まる。面白かった。2020/09/20

りょうみや

19
同著の「社会心理学講義」が名著だったので、最新作の本書も手にとってみる。前書と被る内容が多いが、深い内容なので良い復習にもなり、相変わらず興味深く読むことができた。社会心理学を基にした哲学書といったジャンルだが、難しい専門用語を使わず分かりやすい。我々が一般的に当たり前と思っているであろう常識の根底を疑い、その解釈が覆される快感を何度も味わうことができる。2018/10/13

もちもちかめ

17
7月かな。朝日新聞に衝撃的な紹介のされ方をしてたので、すぐ購入してずーっとずーっと一人で読んでた。この本のおかげで、仕事で異動して大変だったの乗り越えれた(いや乗り越え中)。岸見先生のアドラー本もなんとか理解できた。小坂井先生。こんな人がいたんだね、知らなかった悔しいです。最後のリベット実験の話を高校球児息子にしたら、それ知ってるーってゆっくり実況の動画を紹介される。世代交代よ。母ちゃん3ヶ月かかったんだけど。久しぶりの哲学。ありがとうございます2023/09/26

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