内容説明
胃弱だった漱石が作品にちりばめた食のかくし味!――『吾輩は猫である』の牛鍋屋、『坊っちゃん』で清がくれた金鍔(きんつば)。 作品の中に出てくる洋食と日本の家庭食の意味は? 明治から始まる日本人の激動期を、食文化の視点から考察する!
●『吾輩は猫である』の家庭食
●胃弱な漱石と苦沙彌(くしゃみ)先生
●『坊っちゃん』と天麩羅蕎麦
●博覧会と『虞美人草』
●三四郎が行かなかった食堂車
●明治家庭のカレーレシピ
●本格仏料理店、精養軒
●『明暗』のりんごは何県産か
●サンドイッチとビスケット
●漱石は最期に何を食べたのか
「漱石といえば胃が悪く、酒も弱い。ろくなもの、食べていなかったんじゃないのか?」
そんな疑問を抱かれる向きもあろう。
しかし、漱石だってやはり人間。食べてきたのである。彼が生まれたのは、まさに日本の夜明け。詳しくは本編と年譜を見ていただきたいのだが、江戸から東京に変化し、日本が西洋の料理をどんどん取り入れていく過渡期に彼は生きていた。そして小説のなかに、彼自身がつぎつぎと出合っていったさまざまな食べ物を書き込んでいったのである。
漱石を読むと、新しい食べ物を前にして、ときに驚き、喜び、ときに懐疑的に対峙した明治の日本人がみえてくる。それは、とても新鮮である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ようはん
18
夏目漱石の生涯と作品から見た明治時代の食事情。漱石自身は幼少期の養子先での苦しい生活や胃潰瘍や神経衰弱に悩まされたりと大変な人生であるが、それはそれで食生活はある程度恵まれた立ち位置故に作品にも反映されている。面白かったのは「坊っちゃん」での天麩羅蕎麦のエピソードはうどん主体の関西圏ではあり得なかった話とか「三四郎」が上京する際に食べた駅弁は何処で購入したかなど。2024/01/09
マカロニ マカロン
11
個人の感想です:B+。三四郎文学散歩の参考本。『吾輩猫』の苦沙禰先生の胃弱は漱石自身のことで、愛用した三共商店(現在の第一三共製薬)の三共胃腸薬タカヂアスターゼは高峰譲吉博士が開発し、世界的な常備薬になった。坊っちゃんが4杯食べたという天麩羅蕎麦は漱石が松山中学に赴任した当時、松山には天麩羅蕎麦はなく、同僚の食べた「しっぽく4杯」が元ネタらしい。三四郎が九州から上京した当時、汽車には食堂車があったが、田舎出の三四郎は利用せず、米原駅辺りで買った駅弁を食べた。弁当殻を窓から投げ捨てるのは当時普通の行為だった2023/09/27
マッピー
9
漱石の研究書というわけではない。漱石の文章の中から料理に関する部分を抜き書きして、西洋料理にふれたばかりの明治の日本人の様子を資料と付きあわせた、ちょっと軽めの明治紹介本。例えば坊ちゃんが天ぷらそばを4杯食べたシーンがあるが、当時松山にはまだそばはなかったらしい。天ぷらうどんを、自分の好きなそばに置き換えて書いたのだろう、と。にしても、4杯。(笑)明治という時代や、漱石という人物の小ネタ集としては面白かったけど、それだけ。2018/01/26
sawa
5
★★★★☆ 胃弱のためか、あまり食べものに感心が無かったらしい漱石の、作中から見た当時の食事。作品ごとに分かれていて読みやすい。やっぱり有名なのは『坊ちゃん』の「天麩羅蕎麦4杯」の「天麩羅先生」。当時の食事について、そんなに深く述べられているわけではないけど、軽く読めて楽しい。漱石って旧字体の読みにくいイメージがあって、ほとんど読んだことないけど、とっても面白そうで読みたくてたまらなくなった。(図)2013/01/24
てくてく
4
漱石の作品および漱石自身が食したであろう食事など、食事事情に関する蘊蓄本であるとともに、漱石の英国留学時の体験がその後の漱石に与えた食に対するストイックさみたいなものも考察しており、細切れ時間に読み進めた。坊ちゃんの天ぷらそばのエピソードや当時の列車における食堂車や弁当の考察部分が面白かった。とはいえ、英国留学時のビスケットを唾液で柔らかくして食べたり、雨の中で傘をさしながらサンドイッチを食べたというエピソードはやはり、自分にはよく理解できないままだった。2024/05/10