内容説明
低層の団地群を抱くその町は寂れていた。商店街にはシャッターが目立ち、若者は都会に去り、昔からある池には幽霊が出るという。その土地で人びとが交わすどこか歪な睦み。母の介護にやって来た男はバーで出会った少年に惹かれ、文房具店の女は一人の客のためだけに店を開ける……。終着点は見えている。だから、輝きに焦がれた。瞬く間に燃え尽きてもいいから。直木賞作家のダークサイドで染め上げられた連作短編集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
362
窪 美澄は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 ブラックホールのようなダークな連作短編集、この閉塞感は何とも言えません。 https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/97843349153842023/09/01
のぶ
229
最近新刊の続く窪さんだが、ここ何冊かは優しく温かい本が続いていた。本作は久しぶりにダークで冷たい雰囲気の詰まった短編集だった。5つの話が収められているが、どれもパッとしたところのない場所にある、ひなびた団地を舞台にしているだけで、何とも言えない暗さというか孤独感が溢れてくる。当然読後感は明るくないが、今までの本にも確かに同様なものがあったと思い返しながら考えるが、それがどの作品だったかは思い出せない。暗くて後味が悪くとも、出来自身が悪いという事はない。ただこれ以上にこのトーンが続くと気が滅入るだろう。2023/07/31
nonpono
209
「らいおんはーと」に失ったものはみんなみんなうめてあげるよ、という台詞があるが、本書は失ったものを失ったままにしてきた人々の物語。性欲がないと言ったり、話すだけで良い関係と綺麗事を言ったりするけれど、カビの匂いがするラブホで勉強を教えてあげること、アルミホイルに包まれたおにぎりを食べながら語り合うことの方が、じかに触れ合うより濃厚なエロスを感じる。元来、性欲がない人はあえて言わないんじゃないか。あえて言語化し自分を納得させるところに過剰さが香る。やがて過剰な火は燻りながらも発火するのが必然。そんな一冊。2023/09/09
いつでも母さん
198
低層の団地・・貯水池・・この短編集から私が感じたのは不穏な発光。暗く湿り気を帯びて、纏わりつく空気感。イヤだわ・・でも、読まずにいられない窪美澄。どれも願ったような明るさや救いはない。『宵闇』だけはラストにちょっとホッとするけれど、そこに至るまでのざらつく不快感をどうしてくれよう。帯に「ぬかるみの暗い温もりに、心安まるのはなぜだろう。」とあるが、私は落ち着かない。あなたはどう? 2023/08/13
まちゃ
195
老朽化した団地群を抱く寂れた町。そこに関わる人々が、ふとした事で道を外れていくダークな連作短編集。人生の終盤、50代の同級生たちが何かに迷い、日常から外れていくのはホラー。怖いもの見たさで一気読み。2023/11/04