内容説明
芥川賞受賞第一作。
公私共にわたしは「いい子」。人よりもすこし先に気づくタイプ。わざとやってるんじゃなくて、いいことも、にこにこしちゃうのも、しちゃうから、しちゃうだけ。でも、歩きスマホをしてぶつかってくる人を除けてあげ続けるのは、なぜいつもわたしだけ?「割りに合わなさ」を訴える女性を描いた表題作(「いい子のあくび」)。
郷里の友人が結婚することになったので式に出て欲しいという。祝福したい気持ちは本当だけど、わたしは結婚式が嫌いだ。バージンロードを父親の腕に手を添えて歩き、その先に待つ新郎に引き渡される新婦の姿を見て「物」みたいだと思ったから。「じんしんばいばい」と感じたから。友人には欠席の真意を伝えられずにいて……結婚の形式、幸せとは何かを問う(「末永い幸せ」)ほか、
社会に適応しつつも、常に違和感を抱えて生きる人たちへ贈る全3話。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
455
表題作(中編)+2つの短篇。いずれも一人称の独白語り。これがこの人のスタイルなのだろう(少なくてもこの時期の)。視点が「わたし」であるがゆえに、他の登場人物たちは全て「わたし」のフィルターを通して眺められ語られる。恋人の大地も、それぞれタイプの違う二人の友人も。一方「わたし」は、他者に対しては表面上は常に「いい子」であるが、そうではない内実を持っている。もちろん、そのことを「わたし」は重々承知している。最初に小さな事件、そして最後にこれと呼応するような大きな事件が起こり、「わたし」を揺さぶるが⇒2024/01/25
starbro
335
高瀬 隼子、3作目です。世知辛い現代を生きる市井の人々の違和感を描いた短編集、オススメは表題作「いい子のあくび」です。歩きスマホは、危ないので絶対止めて下さい。私は歩きスマホをしたり、ぶつかったりしません(笑) https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/iikonoakubi/2023/08/09
fwhd8325
237
否定的な意味でなく、最近は息苦しい作品が多いと感じています。表題作「いい子のあくび」の主人公は、どこか、自分に似ていると感じ、それが嫌であると同時に、同じ人がいることでの安心感を得たりします。「お供え」「末永い幸せ」の2編は、女性ならではの感覚が強異様に感じましたが「末永い幸せ」の感覚は、よくわかるような気がします。2023/10/04
やっちゃん
171
超人もマスク変えると性格も変わるがこの娘何枚マスクをもってんだよ‥素の自分を大事にした方がいいとはいうが、どれが本来の彼女なのか。嫌われてる桐谷さんが自分もそうかと思うと怖い。現代女性の思考深くに入り込む文章は自分が女性になったかのようなリアルさがある。これも名作ですね。2024/01/26
hiace9000
155
わかっちゃいけないはずなのに、わかる…。わたし自身の裏側を覗かれるような、この心地悪さは何だ? いや、これ心地良さなのかも。生きていれば多少の外ヅラ作りや、人によって態度や性格を変えてしまう狡猾さや厚かましさは誰にも…あるはず。自分の脳内でどんどん生成され、蓄積されていく穏やかならざる感情を上手く片せず翻弄される3人の女性主人公たち。直子も、わたしも、奏も誰もが現代を生きる女性の分身のようでもあり、実はわたしのカケラだ。やり場のない怒りと冷めた心でそのカケラを拾い上げてみる、高瀬さん初読みの読書となった。2023/12/01