内容説明
19世紀に活躍した英国の思想家、ジョン・スチュアート・ミル(1806~73)。生涯を通じて道徳と政治のあり方を探究し、『自由論』『代議制統治論』『功利主義』をはじめとする膨大な著作で近代社会の立脚点となる理論を打ち立てた。その生涯――父ジェイムズとの確執、ベンサムへの傾倒、精神的危機、伴侶ハリエットとの出会いと別れ、晩年の議員活動――を丹念に追いながら、今なお鮮烈な思想の本質を描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
103
思想家ミルの生涯を通じて、なぜ19世紀英国で改良主義的な自由思想が一般的になったかを考えていく。貧富の大きな格差は大陸諸国と同程度だった英国だが、自由に議論する伝統が国民の政治的成熟を促し、代議制統治が実現する条件が歴史的に不文律として積み上げられてきた。一方で絶対主義下で議論すら封じられた大陸では、急激な変化を求める暴力革命が起きたと論じた。自他ともに道徳的な生き方を是とする国民性が形成された結果、英国は根本的な政治変革を経験しなかったプロセスが見えてくる。それが21世紀社会に適合するかは別の問題だが。2023/09/16
buuupuuu
16
功利主義にしても危害原理にしても、個人の有徳さに踏み込むことはない。しかし本書を読んで、ミルは生涯、ある種の有徳さについての考えを懐き続けたのだという印象を持った。ベンサム主義の利己的な人間像に対して、ミルは人の利他的なあり方の可能性を認める。卑しい感受性が陶冶され高貴なものになりうることも認める。人は自律的に発展していけるものだと、ミルは考えていたようだ。このような自律性、自発性は、危害原理で考えられている自由よりも強い自由だと言えるだろう。もちろん社会が自発性を命ずるならば、それはもう自発性ではない。2023/07/05
リットン
11
じっくり読み込むほどの胆力もなく、あんまり理解できなかった。「ジョン・スチュアート・ミル」「功利主義」という暗記だと、物事の良し悪しをそろばんを弾いて決めるドライな人のような印象になるけど、経済学者なわけでもなく、幅広い思想家で、そのようなドライな印象と違うところが多いなと感じた。また、今では当たり前じゃないの?とか、逆に今ではありえないなという主張もあり、どちらも含めて現代では常識になっている思想の背景にもこうした思想家たちがいるのだろうなと感じた。2023/07/03
ア
9
2023年、没後150年となるJ.S.ミルの評伝。バーリンの積極的自由/消極的自由など、後の時代の枠組みを当てはめて理解されがちであったミルの思想を、主著や『自伝』を中心に丹念に追う。ミルが東インド会社で働いていてインド大反乱への対応で大変だったとか、バートランド・ラッセルの名付け親だとか、昆虫記のファーブルと一緒に植物採集をした後に亡くなったとか、当時のつながりについての記述も面白かった。2023/07/30
不純文學交遊録
9
今年で没後150年となるジョン・スチュアート・ミルは『自由論』の著者としておなじみ。本書のサブタイトルも「自由を探求した思想家」であるが、印象的だったのは『代議制統治論』について解説した章で、複数の候補者に投票できるヘア式投票制は興味深い。ミルは功利主義者としても知られているが、最大多数の最大幸福を旨とする功利主義は、自由主義とは相反するのではないかと長らく疑問を抱いていた。しかしミルは、社会全般の利益となる自己犠牲的な行動を要求していない。他人を幸福にする行為を社会が強制してはならないのだ。2023/07/18