内容説明
インセル、#MeToo、オンライン・ポルノ、セックスワーク、監獄主義――誰を求め誰に求められることを欲するか、欲望には個人の好みを通じてあらゆる抑圧が根を張っている。性の政治をめぐる複雑な問題にとどまり、フェミニストがセックスについて考え語ってきたことを緒に、21世紀フェミニズムをリメイクする。特別解説=清水晶子
目次
まえがき
男たちに対する陰謀
ポルノについて学生と話すこと
セックスする権利
コーダ――欲望の政治
教え子と寝ないこと
セックス、監獄主義、資本主義
謝辞
解説[清水晶子]
訳者あとがき
原注・訳注
参考文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
die_Stimme
7
バーレーン出身で、女性・非白人として最年少でオクスフォード大チチェリ口座教授に就任した哲学者による、フェミニズムエッセイ集。とても大事なことが多く書かれているが咀嚼しきれていない。タイトルで損している気もする。自分にもセックスする権利があるはずなのにできていないと思い込み女性に怒りを燃やして連続殺人をしたある男性の発言からタイトルは取られている。むしろ著者はセックスする権利などというものはないという立場。そこにはルッキズムや非モテ男性の欲望など日本でもおなじみの問題が絡んでくる。2023/05/22
Bevel
4
細部が好き。性犯罪かどうかの懐疑論を立てる場合、一貫性をもって立てられないといけない。被害者を証言を信じようという主張を「推定無罪」で批判することは、プロセスへの批判をプロセスの原則で批判するカテゴリー錯誤だ。『性の弁証法』のオイディプス的なレイプ解釈が人種差別を助長したとか。インターセクショナリティが教えるのは、性に関わる判断が人種などにものに歪められるということだけでなく、共有されたものに焦点を合わせる運動がマジョリティの利益に収束することだとか。あと地位のある人間にオンラインの訴えが効かない事例とか2024/12/07
かす実
4
誰も排除しまいと、難しいところに留まったまま思考し続ける誠実さ、今っぽいフェミニズムだなと思う。「セックスする権利」というタイトルはインセルの主張のことで、それは本当に存在するのか?という問い。欲望は政治的なものであある、とすれば、欲望を(単に規律的な方法でなく)変化させることは可能だろうか。よくツイッターでも言及されている「教え子と寝ないこと」の章は確かに面白い。セックスワークをめぐるフェミニズム内の対立については、象徴を重視するか現実を重視するか、という分析で、かなりわかりやすかった。2024/01/14
花梨
4
店頭での刺激的なタイトルに惹かれ購入。予想通り難しかった。到底理解できたとは言えない。しかし興味深い部分はたくさんあった。私はフェミニストではない。しかし弱い立場にある人の権利も守られるべきだと思っている。そして、はたから見ているとフェミニズムの運動というのは常に矛盾を孕んでいるように思えた。その事を鮮やかに指摘している。米英では特に人種ばかりでなく信仰などの要因も考えなくてはならないのだろう。沢山の問題提起があり、どれも難しい。答えが出ないけれど考え続ける事が必要なのだと思う。2023/09/02
中村
4
とりわけ関心を持って読めたのは、第6章にあたる「セックス、監獄主義、資本主義」だった。資本主義批判とフェミニズムは切っても切り離せない関係にあると思う。著者も「問題はフェミニズムが労働者階級運動になれるかではなく、労働者階級運動がはたしてフェミニズムにならずにいられるのか、である(p. 245)」と述べる。あと、おそらく僕以降の世代の初めての性体験は「画面の前」であることに気にも留めていなかったのでインターネット・ポルノに関するセクションも興味深かった。2023/08/06