内容説明
「マルクスを読むように漱石を読んできた」と自ら語るように,漱石はつねに柄谷行人の思考の原点であり続けてきた.群像新人文学賞を受賞した代表作「意識と自然」(1969年)から90年代に至るまでの著者の漱石に関する評論,講演録,エッセイ等を集め,その思考の軌跡をたどる.多面的な切り口からせまる,漱石論の決定版.
目次
漱石試論 Ⅰ
意識と自然
内側から見た生
階級について
文学について
漱石試論 Ⅱ
漱石とジャンル
漱石と「文」
漱石試論 Ⅲ
詩と死――子規から漱石へ
漱石の作品世界
作品解説
『門』
『草枕』
『それから』
『三四郎』
『明暗』
『虞美人草』
『彼岸過迄』
『道草』
講演その他
漱石の多様性 講演――『こゝろ』をめぐって
淋しい「昭和の精神」
漱石とカント
岩波現代文庫版あとがき
初出一覧
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ころこ
43
後半の方が読み易い。『漱石の多様性』は講演で『こころ』のテーマが欲望の三角関係による遅れるという主張も明快だ。それに比べて群像新人賞を受賞した『意識と自然』は難解だ。漱石の長編小説が、作品上の倫理的な問題と、それとは対応しない作者の内的で存在論的な問題が交錯し合い衝突し、分裂する様を論じている。それはハムレットが破綻しているのと同類の破綻を来している。この様な理解し難いテーマに比べれば、新潮文庫の解説として書かれた文章は短く、どれも印象に残る書き方をしている。その直前にある『漱石の作品世界』はセミナー形式2023/10/26
踊る猫
30
柄谷行人は面白い。いい意味でも悪い意味でも。不器用な中で一生懸命分析している、という凄み(?)があるのだ。カントやフロイトと持ち出すネタはいつも通りで、奇を衒った切り口からではなくオーソドックスな視点から分析を試みる。しかしそれは自分の問題系を疑って自己破壊的に分析するのではなく、逆だ。むしろ分析によって自分に言い聞かせをしているかのような痛さがある。必死さが透けて見える、というかな。斎藤環の卓抜な表現に倣って言えば、漱石を読みたくさせるというより柄谷の他の作品を読みたくさせる、自分探しの分析がここにある2020/06/26
踊る猫
27
今回読み返してみて、どうやら柄谷のレトリックにも慣れてきたようで(まだ難解に思いはしたけれど)楽しむことができた。「意識」「内面」といった自分自身に属する(?)ことがらと、「他者」「外部」「物自体」といったこの世界に広がることがら。双方の関係の中で、ほかでもないこのぼく自身もまたその自明性を揺るがされてしまう……これはもちろん「私見」「邪推」の域を出ない読みになるが、ぼくにとって柄谷を読むことはそのようにしてテクストの中で「自分探し」を行うことである。ウィトゲンシュタインや安吾にも似た「哲学的」な書に映る2023/09/10
さえきかずひこ
11
1960年代末から1970年代末に書かれた「漱石試論1」が漱石作品の内在的分析を行っていてその確かさはともかく圧倒的に面白く、読ませる。それは当時の筆者が漱石の小説に心の奥底まで魅了され、溌剌に論じているからだ。「漱石試論3」に収められた「漱石の作品世界」は1997年に刊行された講演録であり、他の論考を読むうえで助けになる。著者は現代では哲学や思想について込み入ったことを論じている思想家と見なされているが、その根本にはカント的な批判(批評)の精神があったことが、巻末の「漱石とカント」(95年)から窺える。2019/03/17
Go Extreme
1
テーマの分裂: 主題が二分され異なる方向に展開 門ー宗助の参禅は罪感と無関係 行人ーHからの手紙は物語と断絶 T.S.エリオット: 「客観的相関物」の表現が困難な文学作品の特徴 漱石の問題意識が彼自身の存在の難しさとして表れる 自然と社会: 社会の掟と個人の感情の矛盾→登場人物苦しめる それからー代助・世間の掟と自己感情に葛藤 個人的体験: 幼少期の記憶が作品に影響・存在感の不安や葛藤を描写 社会の変化: 日本の近代化が作品に影響・三池闘争など歴史的背景が反映 多様性ー写生文を用い内面と社会の両面を描写2025/02/05
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