内容説明
「血の色は厄払いじゃ。万民の不安を払い落とすのじゃ」幕末の土佐に生まれ「絵金」と呼ばれた男、艶やかな色彩で見る者を虜にした異才、激動の生涯。――幕末の動乱は土佐国も大きなうねりで呑み込んだ。様々な思想と身分の差から生じる軋轢は、人々の命を奪っていった。金蔵はそんな時代に貧しい髪結いの家に生まれた。類まれなる絵の才能を認められ、江戸で狩野派に学び「林洞意美高」の名を授かり凱旋。国元絵師となる。しかし、時代は金蔵を翻弄する。人々に「絵金」と親しまれながらも、冤罪による投獄、弟子の武市半平太の切腹、そして、土佐を襲う大地震……。金蔵は絵師として人々の幸せをいかに描くかに懊悩する。やがて、絵金が辿り着いた平和を願う究極の表現とは――。作家生活20周年記念作品
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
136
ほぅ・・「絵金」と呼ばれた男の生涯。藤原緋沙子が描くその赤も間違いなく赤い。血で血を洗う出来事は血をもって浄化するしかない―絵金が描くのは血の色よりも赤い色、発色の良い緑色、漆黒の黒。この世を生きるのは地獄・・そして絵金の絵はこの世の厄を吹き飛ばす絵。第八章までドンドンのめり込んで読了した。以前読んだ木下作家の絵金も良かったが、こちらはこちらで好い!藤原緋沙子作家生活20周年記念作品を堪能した。高知県赤岡町の【絵金蔵】を訪ねてみたい。2023/06/10
パトラッシュ
132
江戸時代の画家が主人公の小説は北斎を筆頭に数あるが、大都市の江戸では売れれば身分を問わず活躍できた。しかし上士と郷士の差別が激しい土佐では、才能はあっても低層の生まれというだけで迫害の対象となる。髪結いの息子だが画才を見込まれ藩の御用絵師にまでなった金蔵は、保護者を失った途端に謂れのない冤罪で投獄されてしまう。こんな殿様に仕えてはいられないとキレた金蔵は釈放後は町絵師となり、血みどろの無残絵で人気を博す。弟子である武市半平太を失うなど、社会の矛盾への怒りを絵に叩きつけた男の生き様は、その作品よりも鮮烈だ。2023/08/20
がらくたどん
70
目を焼く血みどろ芝居絵で幕末を席巻した土佐の絵師金蔵の生涯を四国出身の時代物の旗手がご自身の作家20周年の記念に描く!こんなご紹介を頂いたら素通りはできんぜよ♪本書は狩野派を極めたいわば「優等生」の金蔵が自身の贋作冤罪事件・親友の理不尽な獄死を経て内に眠っていた「反逆」の血を絵筆に注ぎ「あの」絵金になる過程になんと紙幅の三分の二を割き、体格は良くても喧嘩は苦手で画塾の課題に真面目に励み人一倍妻子を慈しむそんな金蔵を何が絵金に変えたのかを熾火の熱で描く。現が地獄を見せるなら地獄絵で厄を払い浄土を見せようぞ。2023/10/07
アーちゃん
49
初読みの藤原緋沙子さん。カバーの毒々しいほどの赤色に惹かれ読了。高知城下の髪結いの子として生まれた金蔵。物語は贋作騒動により牢に繋がれた金蔵の、幼い頃から画才を認められ、江戸に出て狩野派の絵師となるがその出生から妬まれ、牢に入るところまでの回想がほぼ半分を占める。面白かったのはむしろ無罪になり、絵金として土佐を出てからの金蔵、金毘羅参詣の地以降の話。また時代が幕末のため、武市半平太や岡田以蔵などが絡み、切腹になる半平太や斬首となる若者たちへの憤りが絵へのエネルギーとなるあたり鬼気迫るものがあった。2023/08/04
まる
40
江戸末期、髪結の子として土佐に生まれ活躍した絵師金蔵の生涯を描く大河小説。幼い頃からの画才を認められた金蔵は江戸で狩野派を学び土佐藩の御用絵師となるも、後ろ盾を失ったとたんに贋作の疑いで追放される。だがその後は町絵師「絵金」として、おどろおどろしい赤色を使い激動の幕末の多くの若者の無念を芝居絵屏風として描くようになる。 父には生涯疎まれたが、妻の初菊をはじめ多くの人々に愛された恵まれた人生であったかもしれない。高知県香南市に絵金蔵展示館があるようなのでいつか訪れてみたい。 2023/08/29