内容説明
ある日作家の自宅に迷い込んできたオスのトラ猫。ほどなく、作家と画家の姉が住むその家で飼われることになった。トラーと名づけられたその猫の自由かつ奔放な振る舞いと、それに振り回される二人の人間。猫愛の深みにもだえる日々を綴った、究極の猫エッセイ。トラーの死とその喪失を綴った3篇を増補した決定版。
〈解説〉桜井美穂子
【以下、本文より】
トラーの好物は平貝、タコ、赤貝、アオヤギと小岩井ヨーグルト・グルメファン(四〇〇g入り三八〇円)と焼いりこ(小魚を特殊製法で薄くパリパリに圧縮引きのばした、人間用のおつまみ。ちいさいのりの丸缶くらいの大きさで八八〇円)で、クール宅急便で取り寄せる魚では、メバル、カレイ、キス、ウマヅラハギ、アジが好きだけれど、なんといっても夢中になるのは甘エビで、これは伊勢エビなど無視するほどの大好物で十二匹はペロリとたいらげてしまう。猫などにこんな贅沢をさせていいのだろうか、と反省もするけれど、道で顔をあわせると、ン、グググ、と走り寄ってきて頬をこすりつける姿を見ていると、ヨシヨシ、冬には羽ぶとんを買ってやるからね、トラーちゃんは鳥を捕らえるの好きだから、などと、わけのわからない論理で甘やかすことに決めてしまう。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kieth文
26
金井恵美子さん姉妹のところに棲みついた"トラー"と名付けられた黒トラの男の子への無償の愛に溢れたエッセイとお姉さんの絵。そこに時々登場する著名人と猫のエピソードも、金井恵美子さんの毒舌を交えながらとても面白かった。2025/03/16
阿部義彦
17
金井美恵子さん初読みです。文壇の皆から恐れられていて、あの筒井康隆ともやり合ったらしいですが、この本では勝手に家に住みつかれた猫馬鹿ぶりを見せてくれます。町田康、高橋源一郎、吉本ばなな、小説家は猫が好きなのだ!エビとヨーグルトが好物って贅沢すぎるんじゃないですか。トラーちゃんのヘビ退治には笑わせてもらいました、蛇<テリトリーを犯しに来たぶち猫<エビでその場で慌てて大正エビを殻ごと茹でて、二つに折ってパキッと立てた音に即座に反応するトラー!そんな日々も過去になり、亡くなったその後の日常もさり気なく書かれます2023/06/05
あ げ こ
13
新潮文庫版、エッセイ・コレクションと、何度読んだかわからない。猫、トラーちゃんのその見飽きなさ、都度更新されて行く実感と感動、金井姉妹の側で、まさしく〈日々、新しく知りあった生きものとして目の前に存在〉していたのだ、トラーちゃんは。〈…とはいえ、猫が眠っているとついこちらのほうから額を押しつけたくなる気持はよくわかる。手で触った時とは別の、眠りですっかり熱くなった猫の耳や柔らかな額の毛並みや毛並みのすぐ下の、少しゴツゴツした小さな額の骨の感触がこちらの額に伝わってきて、それはとても良いものなのである。〉2023/04/21
timeturner
5
猫のトラーのかわいさにクゥーッと悶えたり、とんでもない武勇伝に爆笑したり、猫エッセイとしての魅力はもちろん、作家・評論家仲間とのやりとりも面白い。全編猫尽くしの中で1編だけ本の話があって、これがまた共感度100%だった。2023/05/09
モジモジアニキ🏳️🌈🏳️⚧️🍉
2
金井先生姉妹にかしづかれてもちもちボディを保ちつつ猫生を謳歌したトラーちゃんの素敵な個性ともちもちぶり(?)がお姉さんの魅力的なイラストと文体から伝わってきた。 妹である美恵子先生独特のエスプリとセンスある文体もトラーちゃん描写に冴え渡り、やっぱりこの方の文章は格別に楽しいなぁと思う2023/04/06