内容説明
道徳的知識の可能性を問うことが重要なのは、道徳がしばしば内省としてでなく他者への介入や非難として現れるからである。本書ではこれを形式的な道具立てによって精緻に問い、道徳について知ることは困難であると論じる。また道徳的実践をどうすべきかをめぐって、フィクションとしての道徳の再編成と道徳の廃絶の二つの道を探る。
目次
まえがき
序 章 道徳懐疑論にむけて
1 道徳懐疑論の簡潔な分類
2 モラリズムと道徳の権威
3 倫理の自律性と道徳認識論
4 以降の見取り図
第1章 知識の実践性と注文の多い道徳
1 知識の実践性と可謬主義
2 知識の実践性と認識的確率の閾値
3 注文の多い道徳と外界存在
4 結論
第2章 直観主義と自明性――直観主義の諸問題(1)
1 穏健な基礎づけ主義,あるいは直観の必要性
2 Rossと Audiの道徳的直観主義
3 自明性に訴える理論の問題
4 小括
第3章 「現れ」としての直観――直観主義の諸問題(2)
1 「現れ」とは何か
2 現れ一般および道徳的直観の存在についての疑義
3 現れの信頼性についての疑義
4 外界懐疑論の回避
5 結論
第4章 常識道徳の退位
1 常識と証言の正規プロセス
2 常識論法の基本モデル――証言の一致に関するベイズ認識論
3 追跡仮定とその問題
4 共通原因による条件付き独立性仮定の破れ
5 同調による条件付き独立性仮定の破れ
6 「普遍的同意」の不在
7 非自然主義と常識論法
8 結論――常識道徳の退位
第5章 フィクションによるユートピアか廃絶か
1 保存主義と虚構主義と廃絶論
2 廃絶論者による道徳批判
3 選択的虚構主義
4 選択的虚構主義による「道徳」
5 結論――フィクションによるユートピアか廃絶か
補遺1 可謬主義的命題認識論理の近傍意味論
補遺2 頂点一致性条件の問題と序列不変性条件
補遺3 閾値の導出
補遺4 確率と因果モデルとその拡張
文献表
あとがき
人名索引
事項索引