内容説明
全体主義の時代の基底へ
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻し、戦争が始まった。
戦争が始まってから、大量の情報が流れてくる。プーチンの思惑やゼレンスキーの戦略、東西の軍事的分析がその中心にある。
戦争を受けて書き下ろされた本書が注目するのは、『全体主義の起源』を書き、ナチスドイツとソ連の体制の〈嘘〉を暴いたハンナ・アーレントである。
というのも、ブチャの虐殺はじめ、多くの「事実」が〈嘘〉によって歪められているからだ。
こうした事態はいまに始まったことではない。むしろ全体主義体制の本性といえるかもしれない。欺瞞や虚偽は心地よい。圧制下の人々は不意打ちしてくる飾りのない真実より、心地よい嘘を好むのだ。
そして、この戦争をアーレントと同じ眼差しで眺めているのがウクライナの映画監督セルゲイ・ロズニツァだ。彼による『バビ・ヤール』が本書の拠り所になっている。キーウ近郊のバビ・ヤールは「銃殺によるホロコースト」が行われた痛ましい場所だ。
心地よい虚偽にいかに抗していくのか? 本書では、アーレント=ロズニツァに寄り添いつつ、「真理の語り手」の意味を考える。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
koji
15
昨年12.19付日経新聞文化欄「政治哲学者アーレントに脚光」で知った本。「全体主義の起源」のアーレトならば、露・ウクライナ(烏克蘭)戦争をどう見たか。本書の前段はそれが主題。著者によれば、今の状況は、嘘が支配した社会が真理を語る者を閉め出す論理が蔓延り、堆く積まれた瓦礫の山が凡庸且つ無慈悲な悪の風景を映す、正にアーレントが告発した「全体主義」そのものとの事。深く同意。同時に本書の後段の烏克蘭映画監督のSロズニツァ(国葬、ドンパス)論は、愛国の本当、秘密警察、暴力を描く優れた銃後の社会論。一読の価値ありです2023/03/03
はる
8
ドイツ在住のロズ二ツァが市井や片隅にからくも残っていた歴史的フィルムから歴史的真実の映像に、それらが事実として真理に能う背景を紹介している。そして真理を語るに事実に対するモラルというアーレントの主題である歴史的政治哲学を紹介している。 嘘が成立する条件に事実かどうかの真理がある。その真理は政治のモラルに支えられる。そのように読んだ。2023/02/09
PETE
5
フーコー中心の思想史研究者ならアーレントは読んでいるだろうけど、専門外の露宇戦に手を出して大丈夫かと心配したが、杞憂だった。ウクライナ民族主義なら距離を取りながらバビ・ヤールの昏い歴史やソ連・ロシア史に斬り込む映画監督セルゲイ・ロズニツァを、『真理と政治』における真理の反政治的な語り手として位置づけ、露宇語が使えなくても英語資料だけで、他の露・宇の映画人と対比させて、この映像作家を見出してから1年経たないうちに本著の出版に至ったエネルギーには感服する。2022/12/12
あにも
2
ウクライナの映画監督セルゲイ・ロズニツァによる『バビ・ヤール』が本書の拠り所になっている。キーウ近郊のバビ・ヤールは「銃殺によるホロコースト」が行われた痛ましい場所だが、ウクライナ、ロシアの複雑な歴史的関係について、初めて知る事実がたくさん記述されていた。複雑な歴史事情を丁寧に拾いながらも、より広い視点で「真理」の意味を説いている。難解な記述かもと心配していたが、意外に読みやすく展開されていた。2023/02/19
森中信彦
1
とりあえず、この著者はアーレントを取り上げていても理解できていないと思ったということだけ記して、具体的には後日述べたいと思います。2023/02/04